日本の自然放射線量

今井 登 (産業技術総合研究所 地質情報研究部門)

 

われわれの身の回りにはもともと宇宙線や大地、建物、食品などに由来する放射線があり、この値が異常であるかどうかは自然状態の放射線量と比較して初めて知ることができる。このような自然放射線量は場所によって大きく異なっており、これを知るには実際にその場所に行って線量計で測定しなければならないが、これを大地のウランとトリウムとカリウムの濃度から計算によって求める方法がある。計算で求める方法は元素データが手元にあれば手軽に行うことができ、現地に行ってわざわざ測定する必要がないので、時間・手間・費用を省くのに大いに役立つ。また逆に、今現在、高線量の値が出ている地域でも、自然状態での放射線量を求めるのに役立つと考えられる。自然放射線量を計算で求めるには、大地に含まれるウランとトリウムとカリウム(放射性K-40)の濃度を用いるが、すでに公表されている元素の濃度分布図である地球化学図のデータを用いることができる(https://gbank.gsj.jp/geochemmap/)。

地上1mの高さでの線量率D(nGy/h)の計算は下記の式を用いた(湊進,2006)。


D = 13.0 CK + 5.4 CU + 2.7 CTh
 

図1.日本の自然放射線量 (GIFはここから
[1999〜2003年試料採取、2004年発表]

ここでCK(%), CU(ppm), CTh(ppm)はそれぞれカリウム、ウラン、トリウムの濃度である。単位はナノグレイ(nGy)であるのでこれをマイクログレイ(μGy)に換算して表したのが図1である。シーベルトは人体に対する影響の程度を考えて定められた単位であり、ベータ線とガンマ線の場合には、全身に均等に放射線が吸収されたとき1グレイ=1シーベルトと換算できるので、グレイとシーベルトは同じと考えてよい。ウラン、トリウム、カリウムは花崗岩地域で高濃度に含有され、図から分かるように花崗岩などが分布する地域で高い線量になっており、地質図と密接な関係があることが分かる。

自然放射線量の実際の計測値としては、現在線量計を用いて全国各地で測定し公表されている。つくば市でも産業技術総合研究所(http://www.aist.go.jp/taisaku/index.html)や高エネルギー研究所(http://rcwww.kek.jp/norm/)などがリアルタイムで計測値を公表している。自然放射線量の測定を1970年代から全国的に実測を行ったのが放射線医学研究所であり、全国数百点のデータを元に都道府県別に分布図が描かれている(http://rcwww.kek.jp/kurasi/page-41.pdf)。この他に、大学、地方公共団体、放射線地学研究所が実際に測定した線量測定データを編集しまとめた結果(http://www3.starcat.ne.jp/~reslnote/A8_8.htm#30)、また、文部科学省/放射線計測協会が簡易放射線測定装置「はかるくん」を貸し出して全国の自然放射線の計測を行い都道府県別の平均値が公表されている(http://rika.s58.xrea.com/)。

 

参考文献

Beck, H. L., DeCampo, J. and Gogolak, C.(1972): In situ Ge(Li) and NaI(Tl) gamma-ray spectrometry. USAEC Report HASL-258, New York, N.Y. 10014. [DOE Scientific and Technical Information]

今井 登・寺島 滋・太田充恒・御子柴(氏家)真澄・岡井貴司・立花好子・富樫茂子・松久幸敬・金井 豊・上岡 晃・谷口政碩(2004): 日本の地球化学図, 産業技術総合研究所地質調査総合センター.

湊 進(2006): 日本における地表γ線の線量率分布,地学雑誌,115, 87-95. [Journal@rchive]

地質調査総合センターホームページ 「海と陸の地球化学図」

(2011/4/12)

 

日本の自然放射線量
自然放射線量データの表示
 
 
■ 自然放射線量
Legend: Natural Radiation
計算で求めた自然放射線量(地上1m, 今井ほか(2004)の元素分布データ、計算式はBeck et al.(1972)による)(海と陸の地球化学図より)。
ベータ線とガンマ線の場合には、全身に均等に吸収されたとき 1グレイ(Gy)=1シーベルト(Sv)と換算できる。
地質凡例
Legend: Geological map
日本シームレス地質図
の詳細はこちら
地図拡大表示時には地質図を地図上でクリックして凡例を表示出来ます。
注: (2011/5/27 追記)
■ 屋外で計測される自然放射線量は、大地からの放射線量(上記マップ)と宇宙線による放射線量を合わせた値となります。日本の緯度における宇宙線による放射線量は約0.33 mSv/年(海抜 0m)と見積もられています(国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告書)。例えば、上記マップの赤で示された地域では、1.11 mSv/年(大地から) + 0.33 mSv/年(宇宙線から) = 1.44 mSv/年 以上の自然放射線量が見積もられます。
■ 放射線測定器で表示される値を意味のある値に換算する仕方は、測定器の性質や測定方法により異なります。(参考サイト:放射線計測の信頼性について:産業技術総合研究所)
■ 「日本の自然放射線量」マップの基となる試料採取と分析値についての注意点は、「地球化学図の注意点:産業技術総合研究所」を参照してください。

このマップについて:
地質データは産業技術総合研究所地質調査総合センターによる「20万分の1日本シームレス地質図」を利用しています. (産業技術総合研究所地質調査総合センター (編) (2010) 20万分の1日本シームレス地質図データベース(2010年11月11日版). 産業技術総合研究所研究情報公開データベース DB084,産業技術総合研究所地質調査総合センター.)

 


 

  • 「海と陸の地球化学図」へのリンクが正しくなかったため、試料詳細データのページが開けなかった点を修正しました。(2011/6/13)
  • 参考情報: 花崗岩類からの放射線量について詳しく知りたい方は「花崗岩類からの放射線量」もご参照ください。 (2011/6/21 追加)
  • グレイとシーベルトの単位の表記が誤っていた箇所を訂正しました。「1グレイ=1シーベルトと換算できる」のは、ベータ線とガンマ線の場合という条件を明記しました。(2011/7/28)
  • 試料採取時期等の記載要望がありましたので、採取時期等を記載いたしました。(2014/10/20)

 


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