地球史とイベント大事件(3):地球の変化に迫る 2007年トピックセッションより


  地質学の大きな魅力は、「地球が経てきた歴史を理解する」ことを地球表層に岩石や堆積物として残された証拠から紐解くことができることにあります。特に過去の地球に起こった真実があきらかになることは、我々をまるでタイムマシーンに乗って過去の地球に連れて行ってくれることに他ありません。近年の年代測定技術の進歩で、非常に精度の高い時代解像度で研究が行われるようになり、地球におけるイベント的な変化が詳細に明らかになってきています。

  本セッションでは、このような地球上に起こっていた変化の記録の解明についての最先端の研究を集結し、ここの時代の変化を詳細に明らかにするとともに、別の時代における変化との共通点や違いなどを学ぶことを目標におこなっております。


ここで地球の歴史のおさらいをしましょう。
地球の歴史(45才の働き盛りのおじさんにたとえると。)


冥王代(45.6億年—40億年):地球上に記録がない時代:人間も生まれたときから5才ぐらいまではほとんど記憶がないですね。そのころの地球の歴史は月にのこされたクレーターや岩石の痕跡から類推しています。ちなみに最古の鉱物は 西オーストラリア・ジャックヒルというところにおいて、変成した砕屑岩(砂岩)中に含まれるジルコン(ZrSiO2) という鉱物から44億400万年前 (たとえば、Wilde et al., 2001, Cavosie et al, 2006)が報告されています.


 
太古代の露頭 Barberton greenstone belt South Africa. 枕状溶岩上に珪質堆積物がたまっている。約35億年前の枕状溶岩

太古代(40億年—25億年前)(小学生から二十歳ぐらいまで)
この時代は地球がとても多感な頃です。小学生から二十歳ぐらいになるでしょうか。体力がついて、骨格もしっかりしてきます。記録も鮮明になってきます。
地球も同様で、このときにほかの太陽系惑星にない大陸地殻が形成されるのです。この時代は我々が住むことができる大陸を作っていった時代と行っても過言ではないでしょう。また、生物の発生もこの時代に始まります。どんな環境で・いかなる生物が住んでいたのかまだまだ謎の多い時代です。

 


 
雪玉(全球凍結)仮説のナミビアのダイアミクタイト露頭

原生代(25億年—5億4500万年前)(二十歳から四十歳)
人間的にはこの時代社会に入って、人間世界を思い知る時代でしょうか。人間社会のなかでも就職・結婚・倒産・破局・家を造る・出産・など様々なことが起こる時代です。
地球上でも超大陸の形成・分裂・地球環境の暴走と収束(スノーボールアース事件)・巨大生物の時代への移行期と実はいろいろなことが起こっております。それぞれのところで、いろいろな出来事が起こっているようですが、その全貌はまだまだ謎です。

 


顕生代(5億4500万年前—現在) (おじさんの時代)
地球の歴史を考える上で、二十年前まではこの時代までが地球の歴史で、それ以前を先カンブリア時代と呼んでいました。顕生代は古生代・中生代・新生代と分かれており、三つの時代の境界はPT, KT境界と呼ばれ生物の大量絶滅がおこっています。また、古生代の後半は世界的な寒冷化におそわれており、白亜紀は世界中が急激な温暖化を起こしています。特に、ジュラ紀後期以降(約18000万年)より新しい時代では海洋底にも地質証拠が残っており、格段に精度の良い歴史復元が可能になっています。

 
KT境界層(中生代/新生代境界、いわゆる恐竜大絶滅)。ユカタン半島 Belize  (Kiyokawa et al., 2006 地質学会口絵より)のイジェクター堆積物。
 

地球の歴史は人生の転機ともいうべき大きなイベントがいくつもあって、それ以降の世界を一変させています。このような現在では想像のつかない大事件の歴史が地層には残され含まれており、その痕跡・原因を調べることにより、我々の地球の未来の方向づける重要な指針を明らかにしようとしています。

清川昌一(九州大学)



本トピックセッションは現在まで3年間おこなっており、以下のようなテーマの発表がおこなわれています。
1)    太古代の地球:大陸の成長・初期生物・環境:  
2)    酸化的地球への移行問題(太古代—原生代境界)
3)    スノーボールアース時代と原生代後期—カンブリア時代への移行(原生代—顕世代境界)
4)    PT境界(古生代—中生代境界問題)
5)    OAE問題(海洋無酸素状態事件)
6)    KT境界(白亜紀—第三紀境界問題)

文献
G. Brent Dalrymple's, The Age of the Earth, published by the Stanford University Press (Stanford, Calif.) in 1991 (492 p.)
A.J. Cavosie, J.W. Valley, S.A. Wilde, 2006. Correlated microanalysis of zircon: Trace elemnet, d18O, and U^Th-Pb sotopic constraints on the igneous origin of complex >3900Ma detrital grain. Geochimica Cosmo. Acta 70 5601-5616.
K. Condie and R. Sloan, Origin and Evolution of Earth, Principles of Historical Geology, published by the Prentice-Hall, Inc. in 1997 (498p.)
S.A. Wilde, Valley, J.W., Peck W.H., Graham, C.M., 2001. Evidence form detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago. Nature 409, 175-178.

講演プログラム

トピックセッション「地球史とイベント大事件3:地球の変化に迫る」は2007年9月に第114年学術大会(札幌大会)において以下の講演が行われました。

 

  • 北海道東部に分布する根室層群仙鳳趾層から得られた上部白亜系マストリヒチアン階の高解像度安定炭素同位体比層序(荷福 洸・池原 実・成瀬 元)
  • アプチアンの海洋無酸素イベント堆積物の炭素・鉛・オスミウム同位体から読み取る火山活動の記録(黒田潤一郎・谷水雅治・鈴木勝彦・TejadaMarissa・小川奈々子・CoffinMillard・柏山祐一郎・大河内直彦)
  • ペルム紀中期から三畳紀初期にかけての深海底における酸素レベルの変動−放散虫チャート化学分析値の再評価(角和善隆)
  • 古生代/中生代遷移期の始まりと上村事件(磯崎行雄)
  • 太古代の海底環境:ピルバラ海岸グリーンストーン帯,32億年前のクリバーベル層群について(清川昌一・高下将一郎・伊藤 孝・池原 実・北島富美雄・山口耕生)
  • ピルバラ海岸グリーンストーン帯,デキソンアイランド層黒色チャート部層の岩相および炭素含有量の側方変化(高下将一郎・清川昌一・北島富美雄・伊藤 孝・池原 実・山口耕生)
  • 南アフリカ, バーバートン帯中のマサウリチャートの岩相・層序について(稲本雄介・清川昌一・北島富美雄・山口耕生・伊藤 孝・池原 実)
  • 南アフリカ,ポンゴラ超層群の4種硫黄同位体分析による約30億年前の大気酸素濃度の推定(鶴岡 昴・上野雄一郎・小宮 剛・吉田尚弘・丸山茂徳)
  • 宮崎県高千穂町上村地域におけるペルム系Guadalupian統石灰岩のフズリナ化石帯区分(糟屋晃久・磯崎行雄)
  • 南中国・四川省朝天におけるペルム紀G-L境界の層序(予報)(斎藤誠史・磯闢行雄・小林儀匡・姚建新・紀戦勝)
  • 英国ウェールズ州アングルシー島の後期原生代−古生代イアペタス海起源遠洋性石灰岩・チャート(佐藤友彦・磯崎行雄・川井隆宏・丸山茂徳・WindleyB.F.)
  • 豊浦層群西中山層の黒色頁岩中に記録されたPliensbachian-Toarcian期の長期的貧酸素環境(石浜佐栄子・松本 良)
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