2015年度春季地質調査研修の実施報告


 日本地質学会主催、産総​研地質調査総合センター共催の上記研修が、5月18日(月)〜5月22日(金)において、4泊5日で実施された。本研修は、誰でも参加できる若手技術者向けの地質調査研修を毎年実施してほしいという要請が、民間地質関連会社から産総​研地質調査総合センター(旧工業技術院地質調査所)に出されたことをきっかけに2007年度より始まり、今回で9年目、10回目にあたる。2011年度までは、産総​研地質調査総合センターの外部研修プログラムとして、地学情報サービス蝓陛時)の管理運営の下で実施されたが、2012年度からは現在の形で実施されている。今回の研修参加者は、都内の資源・地熱開発会社から男性1名女性1名、都内の石油天然ガス開発会社から男性1名、茂原市の水溶性天然ガス会社から男性1名、千葉市の独立行政法人から男性2名の定員6名であった。講師は、産総​研の徳橋秀一(地圏資源環境研究部門の客員研究員)と小松原純子(地質情報研究部門の主任研究員)が務めた。
 今回の研修では、研修ルートに関して重要な変更があった。というのは、これまで研修の主要地域であり川沿いでのルートマップ作成コースであった東大千葉演習林内の猪の川(黒滝沢)へ行く猪の川林道沿いで比較的大きな崖崩れがあり、その影響で徒歩での通過も研修開始直前の4月下旬になって禁止となった。このため、猪の川の東側に位置し、猪の川沿いで研修対象としてきた安房層群上部の天津層、清澄層、安野層がやはり同様に分布する七里川(しちりがわ:小櫃川本流の上流部)沿いでのルートマップ作成に急遽変更した。また、4月末〜5月初めの連休の合間に、七里川で現況確認調査を実施した。

 研修各日の実施内容は次の通りである。

1日目:518()  晴れ
 午前11時にJR外房線君津駅に集合後、小糸川上流の清和県民の森に移動した。清澄向斜南翼部に位置し、清澄層最下部の厚いタービダイト砂岩優勢互層と凝灰岩鍵層が分布する清和県民の森の渕ヶ沢林道沿いで、タービダイト砂岩層や主な凝灰岩鍵層の特徴を観察後、クリノメーターを使った層理面の走向・傾斜の測定法、ルート図の作成法を練習後、林道沿いで地質学的ルートマップを作成した(写真1)。夜は、ルートマップの清書作業を行い、結果を比較した(写真2,3)。

2日目:519()  雨まじり曇りのち晴れ
 まず、小櫃川支流笹川上流片倉ダム周辺の田代林道(清澄背斜南翼)において、天津層と清澄層境界部の特徴を観察した(写真4)。次に、三石山林道の峠部(林道片倉三石線終点)にある三石山神社の周辺(三石山山頂部)に分布する上総層群黒滝層の粗粒堆積物(基底礫岩)を観察した(写真5)。この後、清澄背斜のほぼ軸上に位置する道の駅きみつふるさと物産館において昼食をとり、午後は、片倉ダムから三石山に伸びる三石山林道(林道片倉三石線:清澄背斜北翼)沿いに分布する天津層上部と清澄層の堆積物、主な凝灰岩鍵層を一通り観察した後、もどりながらルートマップを作成した(写真6)。夜は、ルートマップの清書作業を行い、結果を比較した(写真7)。  

3日目:520()  晴れ
 清澄背斜北翼に位置する七里川本流沿いの天津層上部から清澄層の分布域で、これらの地層の堆積物、主な凝灰岩鍵層の特徴を観察するとともに、それらの分布をルートマップで表現した(写真8〜17)。また、前日に観察した清和県民の森渕が沢林道沿い(清澄向斜南翼)の清澄層最下部の特徴と七里川本流における同じ層準の地層の特徴の大きな違い、変化(背斜軸への地層の収れん現象)にも注目し、確認した。夜は、ルートマップの清書作業を行い、結果を比較した(写真18)。

4日目:521()  晴れ
 夜半に雨が降ったことによる河川の増水の影響も考慮して、午前は、小櫃川の東隣りに位置する養老川(養老渓谷)中瀬遊歩道沿いの上総層群大田代層と梅ヶ瀬層のタービダイト砂岩泥岩互層を観察し、上下方向での岩相の変化や安房層群のタービダイトとの特徴の違いについて観察した(写真19,20)。午後は、七里川沿いで、前日の作業に引き続く形で、安野層分布域のルートマップを作成し、七里川沿いでの黒滝不整合下位の安野層、清澄層、天津層上部分布域でのルートマップを完成させた(写真21〜29)。夜は、ルートマップの清書作業を行い、結果を比較するともに(写真30)、七里川沿いの2日間のルートマップデータを5,000分の1地形図上に描きなおして、全体の配置関係を確認した(写真31)。

5日目:522() 晴れ
 4日間泊まった鎌田屋旅館に別れを告げ(写真32)、安房層群堆積時に外縁隆起帯をなしていたと考えられる嶺岡構造帯を特徴づける蛇紋岩、その蛇紋岩が上昇中に取り込んだ代表的なブロックの岩石 (層状石灰質チャート、枕状溶岩)を嶺岡山地周辺で観察した(写真33〜36)。
 その後、東海岸を北上し、勝浦海中公園東隣りの勝浦市吉尾漁港の東方に伸びる海蝕崖を進みながら(写真37)、先端のボラの鼻で、安野層全体を浸食し、三石山林道や七里川でみた清澄層上部のニセモンロータフ(Ky26)の直上までを浸食する黒滝不整合を観察した(凝灰岩鍵層を通しての不整合下での浸食現象の確認)(写真38)。また、不整合直下の清澄層上部のニセモンロータフやタービダイト砂岩の特徴などを観察した(写真39)。次に、勝浦海中公園において清澄層第一級の凝灰岩鍵層のHkタフ(Ky21)を再度観察するとともに(写真40)、房総の中央部ではタービダイト砂岩優勢互層であったHkタフの下位の層準が、混濁流の下流側にあたるこの地域では泥岩優勢互層に変化していること(同時異相関係)、その結果、各種の凝灰岩鍵層が上下に密集して分布していることを確認した(写真41)。また、この泥岩優勢互層部に発達する共役断層群や生痕化石などを観察し(写真42,43)、研修の締めくくりとした。そして、恒例の地質調査研修修了証書の授与式と記念撮影を海中公園の海岸をバックに行った(写真44)。その後、午後3時半頃にJR外房線勝浦駅で解散し、講師は車(10人乗りハイエース)を夕方までに茨城県のレンタカー屋さんに返すべく、一路北上した。

 今回河川でのルートマップづくりの主要ルートとなった七里川沿いは、すぐ隣を県道81号(清澄養老ライン)が通っていることもあって、従来の猪の川(黒滝沢)ルートと比べてアプローチはより容易で移動時間を節約できる点はプラスであるが、小櫃川本流の上流部にあたることから川幅が比較的広くて、U字型の断面を示す支流の猪の川ほどには露頭の連続性がよくないことや雨などによる流量増大の影響をより受けやすい点はマイナスである。地層の露出状況や凝灰岩鍵層の分布状況を比較した場合には、天津層の場合はいずれもほぼ同じであるが、清澄層の場合は七里川の方が、安野層の場合は猪の川の方がより有利であるなど、それぞれ一長一短があるといえる、今回の研修期間中は、夜半に雨が降り、昼は曇りから晴れというパターンが多かったことから、通常よりは水量が少し多いなかでの実施となった。
 夜半に雨が降ることが多かった関係で、林道沿いの草むらなどで作業した際には、湿気を好む山ヒルが比較的多く観察されたが、その都度、互いに観察しあって早期発見に努め、発見の度に食塩をかけて振り落した結果、実質的な被害はほとんどなかった。また、長靴(スパイク長靴を使用)とズボンとの間には、毎朝布テープを幾重にも巻いて、山ヒルが長靴の中に入らないように注意したが、この布テームの巻きつけは河川の水が中に入るのを防ぐ意味でも有効であった。
 今回は、最終日を除いて、毎日林道沿いか河川沿いでルートマップづくりを行ったために、毎晩そのルートマップの清書作業を共同で行い、その都度野帳を並べて互いに比較した。作成したルートマップの量としては、今回がこれまでで一番多かったといえる。
 今後、秋の研修(11月に予定)までに、従来行っていた千葉演習林(猪の川沿い)北口(黒滝口)への林道の改修・復旧が実現した場合は、猪の川沿いでの研修、あるいは、猪の川と七里川を組み合せた研修を実施することになろうが、改修・復旧が間に合わなかった場合は、今回と同じく、七里川沿いでのルートマップづくりが中心となろう。

 本研修実施にあたっては、地質学会担当理事の杉田律子氏、産総​研地質調査総合センターの関係者、東京大学千葉演習林関係者、地質学会事務局にお世話になった。ここにお礼を申し上げます。

(徳橋秀一・小松原純子)

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写真でみる2015年度春季地質調査研修の様子

写真1:清和県民の森の渕が沢林道沿いの清澄層分布域でのルートマップ作成風景(初日)。 写真2:夜のルートマップ清書作業の様子(初日夜)。
写真3:初日のルートマップの比較。渕が沢林道の清澄層最下部の分布域。 写真4:片倉ダムから東南東に伸びる田代林道沿いの天津層−清澄層境界付近。
写真5:上総層群最下部の黒滝層(基底礫岩)から成る三石山山頂(標高282m)を参拝(2日目).縁結びの祠があることから,その効果を期待したいが? 写真6:片倉ダムから三石山神社へと延びる三石山林道沿いでのルートマップ作成(2日目)。
 
写真7:三石山林道沿いのルートマップ(天津層上部〜清澄層分布域)の比較(2日目夜)。
 
写真8:七里川沿いでのルートマップ作成作業の開始(天津層上部のOkタフ付近)(3日目)。

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写真9:天津層第一級の凝灰岩鍵層Okタフ(Am78:名前は三浦半島の大楠山に由来)(3日目)。 写真10:清澄層基底直下の泥岩層に挟在するバーミューダタフ(Ky7)。向斜南翼の渕が沢林道では、バーミューダタフから黒潮タフ(Am98)までの間には、厚さ300m前後のタービダイト砂岩優勢互層が挟在するが、ここ(背斜北翼)では、タービダイト砂岩層はほとんど挟在せず、厚さも10m前後と非常に薄くなっている。
写真11:清澄層基底部付近の厚い小礫岩〜含礫砂岩(タービダイト)。チャンネル堆積部の末端部に位置し、ここでは、滝つぼタフ(KY8)や滝の上タフ(Ky9)は浸食されている(3日目)。 写真12:七里川河床にみられる清澄層中部のタービダイト砂岩優勢互層。凸部が泥岩層で、のっぺりした凹部がタービダイト砂岩層である。凸部の泥岩層の伸長方向は、層裏面の走向方向に一致する(3日目)。
写真13:クリノメーターを使った層理面の走向・傾斜の測定(3日目)。 写真14:七里川の支沢(赤井沢)に入っての鍵層の確認(3日目)。
写真15;支沢(赤井沢)の入り口付近で見つかったニセモンロータフ(Ky26)(3日目)。 写真16:清澄層とその上位の安野層の境界付近。安野層の基底を特徴づけるサカサタフ(An1)を確認中(3日目)。
写真17:安野層基底のサカサタフ(An1)。どこでも逆級化構造を示すことが名前の由来になっている(3日目)。 写真18:七里川の天津層上部〜清澄層分布域のルートマップ比較(3日目夜)。
写真19:七里川の東隣りを流れる養老川の中瀬遊歩道沿いでの上総層群の地層の見学(3日目)。 写真20:上総層群梅ヶ瀬層最下部のタービダイト砂岩優勢互層(3日目)。
写真21:七里川の清澄層−安野層境界付近にある吊り橋の下から、安野層分布域のルートマップ作成の再開(3日目)。 写真22:安野層モンロータフ(An16)付近で走向・傾斜を測定(4日目)。
写真23:安野層モンロータフ(An16)の上位にあるタービダイト砂岩優勢互層(4日目)。 写真24:安野層のスランプ堆積物(4日目)。
写真25:安野層みのかさタフ(An32)付近でのルートマップづくり(4日目)。 写真26:安野層最上部付近の露頭の全体の様子(4日目)。
写真27:安野層最上部付近の露頭の拡大の様子。泥質砂岩と凝灰岩との互層から成り、堆積物全体が粗粒化している 写真28:七里川の黒滝不整合前後。転石のあるところが不整合付近で、手前は上総層群最下部の黒滝層(凝灰質含礫砂岩)にあたる(4日目)。
写真29:黒滝層の粗粒堆積物に認められる弱い成層構造(4日目)。 写真30:七里川安野層分布域のルートマップの比較(4日目夜)。
写真31:天津層上部〜安野層分布域のルートマップデータを5,000分の1地形図上にまとめて描写した一例。磁北方向(N6°W)の補助線がうすく描かれている(4日目夜)。 写真32:鎌田屋旅館の前で、全員集合写真(5日目)。
写真33:嶺岡中央林道沿いにみられる蛇紋岩露頭。(5日目)。 写真34:嶺岡山地北麓の白絹の滝を構成する層状石灰質チャート(5日目)。
写真35:東海岸の鴨川青年の家前に露出する枕状溶岩の大ブロック(5日目)。 写真36:枕状溶岩の拡大写真(5日目)。
写真37:鴨川市吉尾漁港の東方に伸びる海蝕崖を構成する清澄層上部のタービダイト砂岩優勢互層(5日目)。 写真38:海蝕崖東端のボラの鼻でみられる黒滝不整合。ここでは、安野層全体のみならず清澄層上部までの浸食現象がみられ、かつてここに海底谷が形成されていたという解釈もある。
写真39:黒滝不整合の直下にあるニセモンロータフ(Ky26)。上部の変形体頂部には、多くの水抜け構造が観察される(5日目)。 写真40:勝浦海中公園の海蝕崖でみられる清澄層第一級の凝灰岩鍵層Hk(Ky21:三浦半島逗子市の東小路に由来)タフ(ゴマシオ状凝灰岩:折尺部分)。1mから2m上位には、黒色のスコリア層(通称、アワオコシタフ)がどこでも観察される。
写真41:Hkタフの下位の泥岩優勢互層。多くの凝灰岩鍵層が上下に密集するとともに、中央部付近では大小の共役断層群が観察される(5日目)。 写真42:大小の共役断層群。中央下部の黒色スコリア層は、Hkタフ直上のアワオコシタフである。
写真43:Hkタフ下位の泥岩層層裏面にみられる生痕化石群(5日目)。 写真44:地質調査研修修了証書受領記念写真(右後ろにみえるのは、勝浦海中公園の海中展望塔)。研修参加者には、この他に、CPD(技術者継続教育単位)40単位が与えられる。

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