年頭の挨拶

 
一般社団法人日本地質学会
会長 岡田 誠

明けましておめでとうございます.日本地質学会創立131年目に当たる令和6年(2024年)を迎えるにあたり,年頭の挨拶を申し上げます.

 みなさまご存じの通り,本年元日の夕方に令和6年能登半島地震が発生しました.犠牲になられた方々に心から哀悼の意を捧げ,ご冥福をお祈りします.同時に,安否不明の方々の早期発見と,被災者の皆様の日常生活が一日も早く取り戻されることをお祈りいたします.

 昨年5月に,コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが2類から5類へと変更されたことにより,日常生活における様々な活動制限の撤廃が行われました.そうした中,昨年9月には第130年学術大会を4年ぶりに懇親会も含め完全対面により京都大学にて実施することができました.地質情報展も京都大学構内の隣接する会場で開催され,多くの一般市民が訪れ大変盛況でした.LOCの皆様を始め,大会および情報展開催にご尽力頂いた関係各位に深く感謝申し上げます.

 昨年の年頭挨拶でも書きましたが,日本地質学会の活性化は喫緊の課題です.1999年に5,323名を数えピークを迎えた本会の会員数は,そののち毎年平均で92名の減と,2020年までほぼ直線的に減少の一途をたどってきました.地質学会における入会者のほとんどが,大学院在籍時(多くは修士課程の時)に学会発表するために入会していると推察されます.このため例年100名前後の学生・院生会員の新規入会が,大会中止となった2020年にはほぼゼロとなってしまったことで,それまでの減少速度を大きく上回り,単年度で200名以上におよぶ会員数の急減を招いてしまいました.

 さて,多くの大学院生にとって学会に所属して発表を行うことは,奨学金免除申請に有効なため必須となっています.しかし学会に所属する(すなわち入会する)と年会費を支払う必要があるため,必然的になるべく年会費の安い学会での発表が好まれることになります.大学院生の本会への新規入会を促進するためには,本会が大学院生に対して,関連学協会を上回る訴求力を発揮する必要があります.この問題に対応するために,昨年,大学院生の会費について,これまで年間 ¥8,000だった所を¥5,000へと大幅に減額するとともに,さらにお得なパック料金を提示しました.同時に,4年ぶりに完全対面での年会実施が実現されたこともあり,昨年の学生・院生の新規入会者数は100名を超え,学生会員(学部生・大学院生)者数は213名となりました.学生会員が200名を超えるのは2015年以来のことです.一方,同期間に正会員数は約3,600名から約3,000名へと,600名程度の減となっていますので,全体に対する若手の比率は増えていることになります.この傾向は,正会員の退会者数が変わらず,学生会員の新規入会者数が維持される限り今後も続くため,図らずも年齢構成に関して言えば,ダイバーシティ確保へ進んでいるように見えます.

 しかし学会発表が目的で入会した大学院生の多くは就職時に退会していると推察されます.これは地質学会に限ったことではなく,むしろ学術系に特化した多くの関連学協会においてはさらに顕著になっていると思われます.なぜなら,それらの学協会において大学院修了後に正会員として学会員として残るのは,研究職を得た会員に限られるからです.一方,地質学会では,研究職の正会員と,地質調査業等の民間企業に所属する正会員の数がほぼ同数であり,小中高教員や博物館など教育・アウトリーチ関連業務を担う正会員がそれらの半数と,幅広い職種にわたった構成となっています.そして現在の正会員の多くが,大学院在籍時に入会していることから,大学院修了後に研究職に就かない場合においても,引き続き正会員として本会を支えて下さっていることがわかります.これは,学術系に特化した他の関連学協会とは異なる本会の際だった特色と言えるでしょう.

 学会活性化のためには,アクティブな若手の正会員比率の増加が必要です.そのためには,学生会員の新規入会促進だけでなく,大学院修了後に引き続き正会員として継続頂けるよう,会員全体の満足度の向上を図る必要があります.上記に示した本会の特色を踏まえると,地質学の最先端に関する活発な研究発表を促すと同時に,企業等所属の会員に対するサービス向上も不可欠です.ここ数年の間,CPDが発行されるオンラインショートコースの実施や,地学系大学生などに対して地質調査業など関連業界への就職を促すためのキャリアビジョン誌の発行,学術大会会場等における学生向けの企業案内など様々な取組が進められて来ました.その他,昨年は会員システムのクラウド化を実施し,Web上での大会登録の他,クラウド上での会員情報の管理ができるようになりました.そしてこれまで郵送で行っていた各種選挙の電子的(Web上で)実施を行っているところです.

 組織の活力を維持するためには,時代の変化に対して敏感に反応し,刻々と変化する社会の要求に応え続ける必要があります.そのためには,若手が活躍できる組織であると同時に,性別ダイバーシティーの確保が重要です.昨年の年頭挨拶の繰り返しになりますが,年配男性ばかりの集団では,社会の変化に追従することは難しいのです.今回,選挙制度上での措置により女性役員の増加を試みているところですが,女性会員自体の増加については制度上の対応は難しく,入会時,すなわち大学における対応が必須となります.会員の皆様には是非ともご支援頂けますとありがたく存じます.

 会長任期も残すところあと半年となりました.これまで理事・代議員,そして会員の皆様のご支援・ご協力を得ることができ,破綻することなく学会運営がなされてきました.皆様に深く感謝申し上げます.国際関係など問題が残された状態ではありますが,会員の皆様とともに,引き続き参加して楽しい学会をつくっていく所存です.あらためて皆様のお力添えをお願いして,年頭の挨拶とさせて頂きます.

2024年1月9日
一般社団法人日本地質学会
会長 岡田 誠(茨城大学)

※写真:2024年1月 笠間市稲田 前山採石場跡(石切山脈)にて