ご挨拶


 

 2020年5月から2年間代表理事(会長)を務めることになりました.微力ながら,日本地質学会の発展のために最善をつくす覚悟でおります.取り急ぎ,短くご挨拶させていただきます.

 今年度は新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延(コロナ禍)で始まり,会員の皆様方も周囲の健康/安全確保はもとより,社会活動全般における行動様式の変更について試行錯誤中と存じます.将来の世界史教科書に大転換期と明記されるであろう今回のコロナ禍ですが,我が地質学会もその影響を免れられず,先のお知らせ通り,9月開催予定の名古屋大会の延期という大変残念な決断となりました.しかし,これは地質学会のあり方を色々な視点で再考する良い機会と前向きに捉えたいと思います.

 過去の生物大量絶滅事件では,環境激変時に限って生物が急速にかつ大きく姿・形を変え,生き残りを図りました.人間を含む生物は基本的に怠惰な存在であり,周囲の環境が安定であれば自ら積極的に変化することはほとんどありません.これは実は私達の日常の生き方に,そして学会のあり方にも当てはまるのではないかと感じます.すでに地質学会でもコロナ禍の影響で業務形態の改変を迫られる局面となり,例えばウエッブ会議を用いたパンデミック回避と,新しい形での時間・移動コストの節約が始まりました.某Z社の利用者は昨年末で1千万人だったのが,この4ヶ月間で3億人にまで増えたそうです.技術的にはすでに利用可能でありながら,有効利用されていなかった新システムの急速な普及は,まさに生物に例えれば絶滅直後の急速な新種出現に他なりません.学会講演や論文公表の形についても従来の方式に代わる新しい様式を,世界中で模索しています.同様に,この緊急時を好機と捉え,地質学における研究,教育,普及,そして企業活動など,ポスト・コロナ時代の地質学会のあり方を会員の皆様と共に考え,構築してゆきたいと思います.

 一方で,学会が抱える問題点の本質はなかなか顕在化せず,平穏な日常業務の中では意識しにくいものです.これまでも,長期的な会員数減少傾向とそれに伴う財政維持の困難さが度々指摘されてきました.しかし,学会存続の意義は,会員数増加や財政安定が先ではなく,多数の積極的会員が活動し,本来の目的である学術研究で国内外に大きな影響を与えているのか否かという点で問われるはずです.ワクワクするような面白い研究が進んでいれば,好奇心のある者(多くは学生・院生や若手研究者)は呼ばなくても参加するはずです.重要な目標は,学会が(私のような“生きた化石”会員のためではなく)次世代を担う若手研究者の健全な育成の場となることだと信じます.「入会しないと,また参加しないと損をするよ」と言われるような学会を目指すべく,皆さんの協力のもと努力したいと思います.

 名古屋大会の延期を契機に理事会は新企画を準備中で,その一つにオンラインでのショートコースがあります.各大学における教育カリキュラムの偏りで履修できなかった科目を集中講義のような形で学生や院生に提供し,また若手会員のみならず,最新の知識による中堅社会人会員の再教育を兼ねるものを意図しており,1回限りではなく継続させてゆく計画です.このような研究技術面での会員能力向上の推進に加えて,ジオロジストとしての高い意識覚醒をも促したいと考えています.なんと言っても,泥臭い地域地質学的仕事こそが私たちの原点だったはずです.しかし,ただ臭いだけでは若者に嫌われるので,その中から世界に通じる普遍的なアイデアを出す楽しみ,またそのコツを伝授する必要があります.やや使い古された言葉ではありますが,“Think globally, act locally”を改めて私たちの規範とすべきではないでしょうか.外国の諸学会との関係もアジアに限定せず,より広範囲に拡大したいものです.新しい視点と意識に基づき,世界に誇れる多くの研究成果を日本地質学会から発信できれば,初等・中等教育や普及活動,そして企業スタイルも大きく様変わりすると期待されます.長年続けてきた各種委員会が持つ制度疲労についても,佐々木副会長を中心に見直し中で,スッキリした組織体系への整備を進めています.また各賞の表彰制度や選考過程についても検討中であり,多方面においてより効率的な学会運営を目指しています.

 プレートテクトニクスがデビューして半世紀が過ぎました.次の半世紀でも日本のジオロジストが世界で活躍できるように,共に頑張りましょう.地質学会がさらに飛躍できますように,ぜひ会員の皆様にも知恵を搾っていただければと願います.最後になりましたが,これまで学会を牽引してこられ,バトンを渡してくださった松田博貴前会長ならびに前理事の方々に大いに感謝いたします.
 

2020年6月1日
一般社団法人日本地質学会
会長 磯行雄