巡検情報:学術大会巡検案内書

 

それぞれの巡検案内書原稿は,2006年以降地質学雑誌に掲載され,J-STAGE上(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/geosoc/-char/ja)で公開されていますが,読者の利便性を考慮して,別途Virtual Issueを構成し公開します.
また,アウトリーチ巡検等普及を目的とした一般市民(非専門家)対象の巡検案内書は,現行規則に沿った原稿作成では適さない場合があり(日本語のみの図表の方がわかりやすい等),地質学雑誌本体への掲載が難しいことがあります.そのため補足情報を,学会HP上に掲載し,J-STAGE公開分の案内書と合わせてVirtual Issueを構成します.

 

2023年(京都):第130年学術大会巡検案内書

2022年(東京・早稲田):第129年学術大会巡検案内書

2021年(名古屋):128年学術大会巡検案内書

(注)2020年(第127年)学術大会開催なし.巡検案内書はありません.

2019年(山口):第126年学術大会巡検案内書

2018年(札幌):第125年学術大会巡検案内書

2017年(愛媛):第124年学術大会巡検案内書

(注)過去の案内書については,順次整備していく予定です.
 

見学旅行案内書:2006年(高知)

日本地質学会113年学術大会の際に催された見学旅行の案内書です。
岩井雅夫・村田明広・吉村康隆,2006,見学旅行案内書,地質学雑誌,112,補遺,170pp.


2004年台風10号豪雨で発生した徳島県那賀町阿津江の破砕帯地すべりと山津波
横山俊治・村井政徳・中屋志郎・西山賢一・大岡和俊・中野 浩

  中央小出(1955)の定義による破砕帯地すべりは今日の知識からすれば付加体分布地域で多発している.破砕帯地すべりは地すべり性崩壊であると小出(1955)が記述しているように,崩壊時に破壊された地すべり移動体は山津波となって谷を流下し,しばしば末端では河川を堰き止める.見学地である阿津江の事例には,このような破砕帯地すべりの特徴がくまなく現れている.見学は末端部から発生域へと進めていこう.末端部では,坂州木頭川渡った山津波が対岸の斜面を50 mほどの高さまで乗り上げている.ここでは,山津波の流れを記録する樹木に刻まれた流下痕跡を観察し,一旦は斜面に乗り上げた土砂や構造物の大部分を洗い流した強い引きの流れの存在,山津波の一部が坂州木頭川を跳び越えている状況を確認する.発生域では,崩壊頭部のクラック群・緊張した樹根,崩壊壁の地質を,発生源の谷底では新旧の土石流堆積物,破砕帯,断層を観察する.

 

 

 

四国中央部の中央構造線活断層帯の地形・地質・地下構造
岡田篤正・杉戸信彦

  中央構造線活断層帯は日本列島で最長の活断層であり,変位地形の規模も大きく明瞭である.断層露頭も見事である.1995年兵庫県南部地震(M7.3)の発生以降も,多くの調査機関や大学(研究者)が各種の活断層調査を実施してきた.とくに,ボーリング・反射法地震探査・トレンチ掘削調査などが各所で行われ,中央構造線活断層帯の性質・活動履歴・地下構造などもかなり詳しく判明してきた.こうした成果に基づいて,地震調査委員会(2003)から長期評価も公表された.四国中央部における中央構造線活断層帯の代表的な活断層地形や断層露頭などを見学するとともに,地下構造調査の成果も紹介し,活断層に関する総合的な考察を行い,残された課題や問題点などについて検討する.

 

四国中央部三波川変成岩上昇時の変形構造
遅沢壮一・竹下 徹・八木公史・石井和彦

  本見学コースでは,三波川変成岩が後退変成作用を受けつつ上昇して来た時に形成された変形構造(D1,D2およびD3時相に形成された構造)を観察する.このうち,著しい東西塑性流動で形成されたD1変形構造と,鉛直の開いた東西方向の褶曲群で特徴付けられるD3変形構造は識別が比較的容易であり,本見学コースで数地点において観察する.一方D2変形構造はこれまで必ずしも明確でなかったが,最近著者らは,その実体や上昇テクトニクスにおける意味を明らかにしつつあり,本見学コースの重要な観察・議論の対象として取り上げる.第1日目では汗見川流域の高度変成岩中に発達する,D2褶曲やスラストおよびデタッチメント正断層が観察の見所となる.第2日目には,中央構造線近傍国領川流域の変形帯で,D2正断層およびそれを転位させるD3褶曲を観察する.ここでは,D2の北北西方向への運動方向を示す石英スリッケンファイバーも観察する.

 

 

 

高知県土佐山田・美良布地域の白亜系とジュラ系白亜系境界
香西 武・石田啓祐・近藤康生

  見学コースは,香美市土佐山田町から香美市香北町にかけて分布する黒瀬川帯南帯の地層見学で,田代(1985)による南海層群の模式地とされている地域である.南海層群の地帯帰属を考察するために,南海層群の南側に分布するペルム紀付加体,南海層群基底部礫岩,テチス型二枚貝フォーナとされている二枚貝類の産出地点を観察する.その後,南海層群と断層で接し,ジュラ紀後期から白亜紀最前期の地質年代を持つ美良布層模式地に移動し,Kilinora spiralis 群集,Loopusprimitivus群集,Pseudodictyomitra carpatica 群集の放散虫と海生・汽水生の二枚貝類の産出層準を見学するとともに砕屑岩・石灰岩からなる堆積相を観察する.また,美良布層のジュラ系白亜系境界についても検討する.

 

 

沈み込みプレート境界地震発生帯破壊変形と流体移動:高知県西部白亜系四万十帯,興津,久礼,横浪メランジュ
坂口有人・橋本善孝・向吉秀樹・横田崇輔・高木美恵・菊池岳人

  四万十帯における構造地質学的調査,温度圧力条件分析等の進展は,四万十帯が沈み込み帯の震源領域で形成されたことを明らかにした.そして四万十帯において典型的な地震性断層岩であるシュードタキライトが次々に発見され,海溝型巨大地震発生メカニズム解明の地質学的アプローチが可能となった.本巡検では,四万十帯に発達する変形構造(沈み込みから底付け作用,アウトオブシークエンススラストおよび地震に関わる変形岩),流体移動の痕跡である鉱物脈の産状等を観察し,室内分析による基礎データ(マップスケール分布,温度・圧力,差応力など)をもとに議論を行う.

 

 

室戸岬ハンレイ岩—マグマ分化プロセスの野外での検証
星出隆志・小畑正明・吉村康隆

  室戸岬ハンレイ岩体の岩相変化と層状構造.及び壁岩の接触変成部の溶融構造の観察.特に,岩石の産状,鉱物モード組成,全岩化学組成,結晶サイズ,結晶数密度の観点に基づき,急冷周縁相,結晶集積部,結晶成長部,粗粒ハンレイ岩,斜長岩質岩脈といった本岩体の各岩相相互を関連付け,層状構造の発達とマグマの分化プロセスを検証する.

 

 

室戸岬,菜生コンプレックスのメランジェと岩脈
遅沢壮一

  菜生コンプレックスのメランジェと斑糲岩岩脈,四十寺山層の火山岩礫岩.D1劈開に切られる玄武岩岩脈.シース褶曲と斑糲岩シル. D0正断層とD1境界スラスト.D−(マイナス)1とD1劈開をもつチャート岩塊.時間次第で,手結メランジェなどのオプションあり.

 

 

鮮新統唐の浜層群の層序と化石
岩井雅夫・近藤康生・ 菊池直樹・尾田太良

  唐の浜層群は数少ない西南日本に点在する鮮新統のひとつで,当時 の黒潮やテクトニクスを探る上で貴重な浅海域の情報をもたらす.甲 藤ほか(1953)は泥岩主体の登層,礫岩主体の奈半利層(=六本松層), 含貝化石砂岩層主体の穴内層を総称し唐の浜層群を定義した.しかし 分布域が広範で露頭が点在することからその層序関係や年代論に関し ては種々見解が飛び交い混沌としてきた.1990年前後になり登層と穴 内層は一部同時異相の関係にあり,それらを不整合に覆う海成段丘堆 積物が六本松層であると理解されるようになったが,公表されたデー タが断片的で年代論に関してはなお見解に相違がみられた.2005年末 〜2006年初頭に相次いで陸上掘削がなされ,年代論に決着をつけ黒潮 の様相を高時間精度で明らかにしようという取り組みが始まった.本 見学コースでは登層模式地,六本松層模式地,穴内層の堆積シーケン スと岩段丘堆積物・海食地形を案内,論争にいざなう.

 

 

室戸半島の第四紀地殻変動と地震隆起
前杢英明

高知から室戸岬にかけての土佐湾北東部の海岸に沿って,標高数百m以下に海成段丘がよく発達している.特に室戸岬に近い半島南部では,段丘面の幅が広くな り,発達高度がより高いことから,切り立った海食崖と平坦な段丘面のコントラストが印象的であり,海成段丘地形の模式地として地理や地学の教科書等に頻繁 に取り上げられてきた.本コースの見どころは,室戸沖で発生する地震性地殻変動と海成段丘形成史とのかかわりについて,これまでの研究成果をふまえて,傾 動隆起などを実際に観察できることにある.さらに,ここ数千年間の地震隆起様式について,地形・地質学的証拠と測地・地球物理学的な見解に相違点があるこ とを,現地を見ながら確認できる.