今週のキーワード


大イベント

  過去の地質現象は現在の自然現象と同じ作用で起きたとする斉一観は、地質学にとって重要な概念である。しかし地球史を詳しく研究すると、現在では全く考えられないようなイベントがたびたび起きており、それがまた重要なターンニングポイントとなっていることがある。

  地球の歴史は、ある意味で冷えていく歴史であるが、その冷え方は一定でなく、時々地球内部から巨大な熱が出てきたり、地球外部からのエネルギーインプット(たとえば隕石落下)などがある。そんなイベントの痕跡はローカルな地質に潜んでおり、これを具体的に暴いていくことで思いがけない真の歴史が紐解かれる。真実の多くはまだまだ地層中に閉じこめられたままである。

清川昌一(九州大学)

カルデラ

  カルデラとは,ポルトガル語で「大鍋」の意味を持ち,火山に見られる巨大な凹みである.巨大とは概ね直径2km以上のものを指す.隕石が衝突してできたクレーターとは明瞭に区別される.地下からマグマが一斉に噴出することで,地表が陥没するものを「陥没カルデラ」と呼ぶ.巨大噴火でできるカルデラは,陥没カルデラであることが多い.言い換えれば,カルデラの存在は,火山が過去に巨大噴火を起こしたことの証明である.

  陥没カルデラを造るような巨大噴火は,日本列島では1万年に1回ぐらいの割合で起こっている.日本で見られる陥没カルデラ火山は,北海道〜東北と九州で圧倒的に多い.その噴火の影響は日本列島全体に及んだことが,堆積物の証拠から分かっている.一方,2000年の三宅島噴火のような玄武岩質火山では,マグマの噴出が少なくても,陥没カルデラを生じることがある.この時のマグマは多くが地下を移動したため,地表に出てこなかったと考えられている.

三浦大助(電力中央研究所)

写真:北東側から見た屈斜路カルデラ.後方は雄阿寒岳.


海底地すべり

  海底地すべりとは,なんでしょう?わからないので,辞典を引いてみましょう.有名な「Glossary of Geology 4th edition(AGI)」にはSubmarine sliding という言葉は載っておらず,Subaqueous glidingはSlumpとあります.しかし,近年の学術論文には,Submarine slide(ing)やSubmarine landslideという用語は頻繁に見られますので,実際にはまかり通っているようです.そしてSlumpは陸上地すべりと海底地すべりの2つの意味があり,海底地すべりとしては「The sliding-down of a mass of sediment shortly after its deposition on an underwater slope」と記されており,より正確には,「Subaqueous slump」とあります.

  一方、日本の「地学事典(平凡社及び地学団体研究会)」には「海底地滑り:海底の堆積物が重力の作用により斜面をすべり落ちる現象」とちゃんと載っています。堆積物とは,泥や砂,石などのことです.しかし,近年ハワイ諸島やカナリア諸島の火山島でも海底地すべりの事例が見つかっており,用語もどんどん進化中のようです。

  最後に海底地すべりの重要性について少しだけふれておきます.ハワイ諸島や北海などで大規模の海底地すべりによって,津波が引き起こされたことがわかっています。しかし日本周辺では研究例が多くありません.現在,日本では海底資源であるメタンハイドレートの開発を押しすすめており,海底地すべりに対する関心が高まってきています.20世紀中頃には,ミシシッピデルタの油井プラットフォームの流出事故などの産業構造物に対する被害が社会問題になりました.失敗学(http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search)ではないですが,過去に学んで,未来につなげる意味でも,海底地すべり研究は,必要不可欠です.

(川村喜一郎 深田地質研究所)