東日本大震災に対する学会員の声:補足1

2011年8月23日配信のgeo-flashにて募集した『東日本大震災に対する学会員の声』にお寄せいただいた内容の補足です。

津波とはどんなものか―東日本大震災の津波災害について検討するために―

以下、今後の防災に関係して、今回の津波災害で何故被災者が増えたのかという問題 意識で、なるべくやさしく書いてみます。しかし、理科系の学歴を持つ市民だけでなく、一般の地質家にさえも分かり難いかもしれません。(専門家間で検討されたものではありません。間違いがあるかも知れません。検討を御願いします。)

 

1:津波で死なないために津波の特性をもっと知ろう
    


○津波は本来、長波(極浅水波)である。
極めて広汎な海底が動くことにより生ずる注1。 表面が一見水平的。
観察していても、何処まで水面が上がるか予測できない。岸で恐怖を感じないで見ていると、見る見る水面が上がってきて溺れる。
防潮堤を越えると水は水面を水平化しようとして10分以上〜何10分も越え続ける。(初めは落下し洗掘も起こす。)
水の分子は、かなり水平的に、水面から水底近くの深部まで同じ速度で、長い周期で往復運動。
この水の動き(流れ)が、地形勾配が小さく妨害物がなければエネルギーを保って陸上まで遡上する。
河川や運河があると、その流れに克つて、とくに陸地深く遡上する。上流からの洪水とぶつかり、また満潮が重なると、水位が大きく高まり、しばしば川の堤防を越えて氾濫する。海岸沿いの低地に後ろの山側の川から浸水することがある。

○水深が浅いところに津波が入ると、質量を保存しようとして水面が高くなる。
波の進行速度が遅くなり、波の形が波長が短く高さが高いものに変化する。段波になる。さらに砕けうる。水の粒子(”分子”)の運動速度は逆に速くなる。
防潮堤を越えて浸水する津波の水面は、初め低い。下の方でビルの間の道を流れているなと思って観ているうちに、遅れて波としての性質が現れ(?)、水面が上がってくる。(流速も結構速いー自転車〜自動車並み)。

○妨害物、たとえば防波堤があれば、津波のエネルギーは減殺されるが、水面は高くなる。堤高を越えれば浸水する。一旦越えれば、波の谷がくるまで何10分でも越え続ける。
沈水堤、防波堤、防潮堤などの構造物があっても、そのために津波の高さが高くなり、浸水につながることがある。(福島第1原発の場合も?ーテレビ画像を解析の要あり。)

○段波、砕波、砕波後の流れもエネルギー大。
とくに砕波は空気を取り込み圧搾→爆発するため破壊力大。
防潮堤、防波堤に段波がぶち当たり砕波し、コンクリート構造物を破壊。(福島第一原発の場合は?→テレビ画像を解析の要。)

○波は重合、回析、反射する。→局地的に水面が上がる。
これらはとくに湾の奥で起きる。段波をなしていれば特別高く海崖にぶち当たる。
その状況は、同じ湾でも津波によって同じでない。過去の例や3.11津波について、個別に検証する要がある。これらに防波堤の果たした役割も。

○運搬力大。海浜、瀕海の物質を打ち上げ、一方では運び去る。
浸食、運搬、堆積、それによる被災とその長期継続が起こる。
砕波すれば、とくにそこでは水底を浸食、底質物を陸側に運び出す。海浜に砂丘や砂州があれば、また前浜が急勾配でも、そこで砕波し、それらを構成する砂を陸側へ運ぶことが多い。
どこから何が、何処へ運ばれたか?堆積記録(ツナミアイト)調査は今後の防災を考えるに極めて重要。(陸上から海溝底まで。)
瓦礫の処理は大問題。瓦礫は堆積物である。その眼で堆積状況解析、処理を。

○引き波の流れは、低いところに集まり、下刻する。→破壊の帯線状集中。
復興計画策定(今後の津波の挙動を想定するなど)に重要。

  

2:専門家から強調され、比較的良く知られている注意事項
  • 複数の海底断層が連動することがある。巨大津波が起こる。
  • 太平洋の対岸での地震による津波が日本の海岸に達することがある。
  • 火山爆発、斜面崩落、隕石落下などによっても津波は起こる。
  • 第2波、第3波の方が大きいことが少なくない。
  • おそらく引き波(引き流れ)との関係がある。
  • 地震が小さくとも油断できない。
  • 海底断層の動きが”ぬるぬる”だと、かえって大きな津波が起こる。
  • 「引き波から始まるとは決まっていない」
    (正しい。しかし、異常な引き波が起こればそれは津波である。)
  • 津波はしばしば火を伴う!
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    3:とくに指摘、強調しておきたい事項

    1)地震津波発生には周期性がある。海底断層活動(地震)の周期性による。
          災害リスクのグレイゾーンが時と共に変わる。
          → 地域計画における防災・減災の検討に重要な要である。 
    2)プレート沈み込みには直接関係ない海底断層でも、動けば津波を生じうる。(例えば若狭原発群の場合)
    3)東日本が復興する前に、西南日本で超巨大地震・津波が起こる怖れ大。日本経済沈没も。従来の対策はこの連動に対してなされていなかった。誰でも知っているはずだが呑気。化石燃料(とくにガス)基地、コンビナート(+港湾)、原発(+港湾)での防災は進んでいるのか?数多の盲点あり。
    4)津波防災の盲点(船舶に関する例)
          船舶は本来浮くように造られているので運ばれやすい。→凶器になりうる。ところが、大船舶は津波警報が出てすぐには出航出来ない(出来るだけの人員がいないー注2)。

    4:専門的質問、問題提起など

    従来の堆積地質学的調査では、津波の遡上高、遡上範囲など、一部の問題に注意が集まり、たとえば水流の速度については、被災に関係があるにも関わらず関心が向けられ難かったと言われる(今村談話:朝日新聞記事による)。もう少し津波の特性に踏み込んで防災問題につなげることが必要であろう。

    <問題と質問>

  • 水粒子の速度はどこまで速くなりうるか? 遡上流は、初めは射流なのか?
        射流は乱流になり難い。(水面は比較的にスムース。)このことも、観察者に恐怖を大きくは感じさせなかったのでは?
        跳水によって水位が高くなる場合はないか(川からの浸水に関係ないか?)。
  • 津波は比較的に砕波し難い性質を持つと思われる(志岐の考え)が、水底に傾斜の急なところがあれば、砕け寄せ波を造る(下記)。さらに、崖があれば当然に砕ける。海岸に防波堤や沈水堤などを設置すれば、津波は砕け寄せ波をなしうるだろう。その際のエネルギー放出が、それら人工物を破壊する役割を果たすだろう。
        砕けた波は空気とともに泡をなして平均海水面より高く上がる。福島第一原発では、この現象も起こったのではないか。
        その後の水の運動はどのような特徴を持つのか?(風波などは砕波して後、岸に近づくにつれて一旦普通の波の状態に戻るが? )
  • 防波堤、防潮堤、沈水堤の役割を、”それなりに役にたった”では済ましてはならないのでははなかろうか。これらに関して上に触れた諸問題が、個別に具体的検討されることを期待する。今後の再建、あるいは撤去、再設計に基づく配置・建設などのための必須条件であろう。
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    津波の特性と術語の解説(一部重複)

  • 津波は、水深に比べて充分に長い波長を持つ波、すなわち長波である。極浅水波の性質を持つと言っても同じ。
  • 深海での津波の伝搬速度は極めて大きく、水深4000mのところを通る振幅1mの津波では200m/sとジェット機並みである。一方、流れ(水粒子の運動)の速度は遅く、5cm/s に過ぎない。浅いところ入れば、ツナミの伝搬速度は遅くなり、水粒子の速度は速くなる。
  • 射流:長波の伝搬速度よりも大きな平均流速を持つ流れ。フルード数が1より大きい。常流:長波の伝搬速度よりも小さい平均流速を持つ流れ。フルード数が1より小さい。
  • 跳水:射流から常流への遷移現象。水路床の勾配、幅、高度、形状などの急変するところで起こる。激しい乱流をなすためエネルギーを消費する。跳水を経験した直後の流れは厚さが増大し、断面平均速度が減少する。河川では、トランンスバースバーやある種のアンテイデューン(反砂堆)が形成される。
  • 深海での津波の伝搬速度は極めて大きく、水深4000mのところを通る振幅1mの津波 では200m/sとジェット機並みである。一方、流れ(水粒子の運動)の速度は遅く、5cm/s に過ぎない。しかし、浅いところ入れば、ツナミの伝搬速度は遅くなり、水粒子の速度は速くなる。
  • 一般に砕波には崩れ波、巻き波、砕け寄せ波などがある。海底が極めて急勾配な場合に波の全面が全体的に崩れるのが砕け寄せ波で、波長が極めて長く、波高が小さな波(津波はこの特徴を持つ)だけに起こるとされている(荒巻:1971「海岸」)。
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    以下、市民対象の講演で触れることがあります。

    もちろん津波(体)は剛体ではありませんが、マスとしての質量が巨大であるから云々という話です。

    運動エネルギー=質量×速度の二乗÷2 力=質量×加速度  
         (加速度は速度の変化率) (中学理科)
    E=mV2/2 F=mα (高校理科)

    津波のmは極めて大きい!

     


    注1)東北・関東沖地震は30年以内に97%と予測。範囲は専門地震家には予測外。巨大津波の可能性は津波・津波地質専門家は気付き、注意を初めていた。
    注2)港湾に船舶が入ると、乗員は少数の保安要員を残し、上陸して居なくなる。津波の来襲まで1時間以上ある場合にも、船を沖に出せる保証はない。港湾や海岸に位置するコンビナートの津波防災を考える上で死活的盲点である。たとえば、今のままでは、風向きにもよるが、和歌山市は火の海になる(筆者はかねて、機会ある毎に警告しているが、なかなか、その実効が現れない)。