関東平野内陸部の住宅地での盛土材質の相違による液状化要因の解明

新潟大学災害・復興科学研究所 卜部厚志


   2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって,関東地方南部では埋立地などの人工地盤を中心に多くの地域で液状化が発生した.このうち,千葉県の浦安地域などの東京湾沿岸の埋立地では,顕著な液状化により多くの建物に被害が及んだ.埋立地における液状化被害は,国内外のこれまでの地震によっても繰り返されてきた現象である.一方で,関東地方内陸部の埼玉県,千葉県や茨城県内においても,一部の地域で液状化による建物被害が発生しており,千葉県や茨城県では現在の利根川流域に被害が集中している.このため,本研究では,関東地方内陸部の液状化被害に着目して,液状化被害の記載と分布,立地地盤と液状化の発生要因について検討を行った.現地調査は,茨城県の潮来市日の出地区,埼玉県久喜市南栗橋地区と神栖市深芝地区で行った.この結果,日の出地区と南栗橋地区は浚渫砂による盛土造成による地盤,深芝地区は砂利採取後の埋め戻し地盤であり,人工地盤において顕著な被害が発生していることが明らかとなった.また,潮来市日の出地区については,液状化の発生と建物被害要因を解明するため,被災地におけるボーリング調査や粒度分析による検討を行った.

第1図 潮来市日の出地区での液状化被害

調査地域の宅地地盤の形成過程と液状化の被害概要

1)茨城県潮来市・日の出地区

  日の出地区は,内浪逆浦と呼ばれた潟湖を干拓し,その後に盛土造成した住宅地である.土地変遷の履歴は,まず,昭和6年より潟湖に囲み土手(堤防)を設置して排水により干拓を行い農地化した.次いで,鹿島臨海工業地域の開発にあわせた住宅地の需要から,昭和44年より北浦等の周辺の潟からの浚渫土砂により盛土をして宅地化した場所である.盛土は,浚渫船からパイプによる送水によって行われている.また,潟湖に直接,浚渫によって盛土したのではなく,およそ30年以上の間,旧潟湖の湖底の泥層や砂層を乾陸化したことが,通常の埋立地の形成過程と異なる.後述するように,この造成過程の中で乾陸化したことは,地層の強度の増加と関連している.
  日の出地区では,建物(木造住家)の傾き,建物(木造住家)の沈下,道路の変形,側方流動など液状化による典型的な被害が広範囲で発生した.特に3丁目,4丁目,5丁目,6丁目,8丁目において被害が集中し,旧潟湖の縁辺部に相当する日の出地区の南部や北部では,被害が少なかった.第1図に,建物の外見上の傾きを基準として,全壊程度(内閣府の1次被災判定の基準)の傾き,半壊程度の傾きと建物の傾きがない(あるいはごく僅か)の3段階に区分による建物被害の分布を示す.全体としては,日の出地区の住宅の約50%が半壊程度以上の被害を受けている.外見上の建物被害がわずかな街区では,道路や宅地の変形もごくわずかであることが多い.また,日の出地区周辺の自然地盤の低地(田んぼ)や宅地ではほとんど液状化は発生しておらず,浚渫盛土された日の出地区のみで液状化が発生した様相を示している.一方で,日の出地区内を詳細にみると浚渫盛土による造成地のすべてにおいて液状化が顕著なわけではない.浚渫以前の空中写真(1948年米軍撮影)と比較しても,地区のなかでより湿潤な部分と被害の集中域は一致していない.このため,地区内において液状化による建物被害が集中した要因を解明する必要がある.
ボーリングによる詳細調査については後述する.

2)埼玉県久喜市・南栗橋地区
南栗橋地区は,埼玉県東部の利根川流域に位置する.地形環境は,旧利根川水系による自然堤防と流路跡の低地帯から構成され,南栗橋地区は,旧流路跡の低地や氾濫原にわたる地形部分を造成して宅地化した土地である.土地変遷の履歴は,昭和57年頃から宅地造成が計画され,平成元年頃より工区ごとに囲み土手(堤防)を設置して,東方に位置する権現堂川(旧利根川流路)の遊水池化工事の際の浚渫土砂により盛土をしたものである.盛土は,浚渫船からパイプによる送水によって行われている.
南栗橋地区では,建物(木造住家)の傾き,建物(木造住家)の沈下,道路の変形など液状化による被害が発生した.特に12丁目に被害が集中しており,造成前の空中写真による地形解析から,湿潤な地盤と推定される7丁目等では被害はほとんど発生していない.また,南栗橋地区周辺の自然地盤の低地(田んぼ)では液状化は発生しておらず,浚渫盛土された宅地の一部で液状化が発生した.

3)茨城県神栖市・深芝地区
深芝地区は,茨城県南東部の利根川下流域,霞ヶ浦の南部に位置する.地形環境は,河川や潟湖周辺の低地帯を宅地化した土地である.土地変遷の履歴の詳細は不明であるが,深芝地区を含め周辺地域の浅層部には,河川起源の砂礫層が分布することが知られている.このため,農地の地下の砂礫層を砂利として採取し,周辺の下総層群の砂層によって埋め戻すことが広く行われている地域である.
深芝地区では,建物(木造住家)の傾きや建物(木造住家)の大きな沈下など液状化による被害が発生した.しかし,液状化による沈下や変形は,宅地敷地部分のみにおいて発生し,道路部分は変形していない特徴がある.前述の日の出地区や南栗橋地区では,宅地で液状化が発生している街区では道路も大きく変形しており,宅地と道路部分が一体となって液状化したことを示している.しかし,深芝地区での液状化による建物被害は,宅地の敷地のみで発生しており,砂利採取して埋め戻した農地が宅地として開発され,埋め戻した部分のみが液状化したことを示している.このことは,周辺地域において砂利採取して埋め戻された農地が陥没や変形をしていることからも,液状化発生の要因が砂利採取後の埋立にあることを支持している.

第2図 日の出地区でのボーリング試料の層相
第3図 日の出2丁目コアの粒度組成

第4図 日の出6丁目コアの粒度組成

※図の拡大はそれぞれ図をクリック



潮来市日の出地区でのボーリング調査と粒度分析

1)コア試料の層相
日の出地区は,浚渫による盛土で造成されているが,同じ浚渫盛土による地盤の中で液状化の発生程度に差異がある.この要因の解明は,液状化の予測につながる課題である.また,液状化した地区において,液状化した地層の層位を明らかにすることは,復旧方法や防止策の策定につながる重要な課題である.このため,液状化被害が顕著な4丁目,5丁目,6丁目,8丁目の公園内と,建物被害が比較的軽微な2丁目と7丁目の公園内で,深度5〜6mまでの表層地盤のボーリング調査をおこない,層相の観察,液状化の有無,粒度分析用試料の採取等を行った(第2図).
コア観察の結果,液状化による建物被害が顕著な4丁目,5丁目,6丁目,8丁目の表層地盤は,深度3〜4m程度まで浚渫による中〜粗粒砂層で構成され,2丁目と7丁目では深度2m程度まで浚渫による粗〜中粒砂層で構成されていることがわかった.浚渫による砂層の下位は,4丁目,5丁目,6丁目,8丁目では旧潟湖に堆積した泥層を主体とする層相であり,2丁目と7丁目では旧潟湖に堆積した砂層から構成される.6丁目などのコア試料では,浚渫砂層との境界の泥層上部が硬化していた.また,コア試料の層相から,液状化の顕著な層位の記録を行った.4丁目,5丁目,6丁目,8丁目のコア試料では浚渫砂層のほぼ全体が液状化しているのに対して,2丁目と7丁目のコア試料では浚渫砂層の全体ではなく一部の層位のみが液状化していた.各地点ともに,浚渫砂層下位の旧潟湖に堆積した泥層(泥層に挟在する砂層)や砂層は堆積構造が認められ液状化していないことが明らかとなった.建物被害との関係は,被害が多い地区において浚渫砂層の層厚が厚く(6丁目は除く),被害の少ない地区では浚渫砂層の層厚が薄い傾向がみられる.また,被害の少ない地区での浚渫砂層は被害の多い地区と比較して,全体に粗粒な傾向もある(第2図).

2)粒度組成
 液状化による建物被害は,浚渫砂層の層厚や粒度と関連している可能性が高い.より詳細に検討するため,各コア試料を10僂瓦箸忘亮茲掘つ盛澳彬,砲茲辰椴嚇拱析を行った.粒度範囲は−1φ〜5φとして,0.2φごとの粒度分布を求めるとともに,平均粒径(Mean),分級度(Sorting),歪度(Skewness),尖度(Kurtosis),最頻値(Mode),中央粒径値)(Median)も求めた.例として,2丁目と6丁目の粒度分析結果を示す(第3図,第4図).
2丁目コアの浚渫砂層の平均粒径は1.5〜2.5φを示し,淘汰度は0.6〜0.8を示す.全体には均質ではなく層位ごとに差異があることが特徴である(第3図).コア観察での液状化が顕著な層位は平均粒径が2φを示す.一方,6丁目コアの浚渫砂層の平均粒径は1.8〜2.2φ程度で2丁目と比較すると全体に均質である.
一般に建築系や地盤工学分野での液状化指針は,幅広い粒度の範囲を液状化する可能性がある砂層としている.日の出地区のコア試料の粒度分析結果をこれらの指針に当てはめると,すべての地区の浚渫砂層と自然地盤の砂層が液状化の可能性の高い粒度範囲を示す.今回の潮来地区の地震動と継続時間では,2丁目と6丁目あるいは自然地盤での砂層の液状化や建物被害に差異があるため,液状化指針への当てはめでは今回の被害の差異を説明できない.
2丁目や6丁目コアなどの平均粒径の分布からみると,建物被害の少ない2丁目と7丁目では,平均粒径にバラつきがあり,一部の層位において液状化したものの全体には及ばず,逆に建物被害の多かった地区でのコアは浚渫砂層の平均粒径がそろっており,液状化が発生した層位が上下の層位に拡大して,浚渫砂層のほとんどが液状化したものと考えられる.このように,浚渫砂層の層厚だけでなく,粒度構成の相違が建物の液状化被害の発生程度と大きく関係している可能性がある.

液状化被害復旧への課題
 現在の地震による被害程度を判定する制度では,液状化による被災が十分に評価されず,被災者への生活再建支援につながらない.液状化の被害判定の拡充も必要であるが,具体的な支援の拡充が急務であると考えられる.
また,液状化は地盤を改良しない限り,繰り返して発生する災害であることから,今後予測される地震リスク(首都直下型,房総半島沖地震)を考え,建物復旧の工法と費用の選択をする必要がある.地盤の改良は,建物の更新時に実施すると工法の選択や費用の面でも安価となる.地盤環境,地震リスク,建物更新,費用など検討した上で,適切な復旧方法の検討が必要であり,液状化リスクの評価として,理学的な粒度分析の解釈も必要となっている.

 

(2013/3/11)


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