福徳岡ノ場の噴火

 

国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門
上席研究員 田村 芳彦

 

  2021年8月13日の午前6時20分頃、気象衛星ひまわりが福徳岡ノ場からの噴煙を観測した。噴火開始時刻はウエイク島のハイドロフォンに記録されているデータから午前5時50分と推測されている。噴煙高度は16劼肪していた。海上保安庁が8月16日に航空機による観測を実施したときは、既に噴火は終了していたが、直径約1kmの東西にかっこ型をした二つの新島が確認された。そして、国土地理院によると、新島の東側の陸地は9月5日にはすでに海没していた。今回の噴火は3日間と極めて短期で、その噴出物は1986年の噴火による軽石と類似している。この短期間に噴出して漂流した大量の軽石が南西諸島に漂着して、被害を起こし、注目を集めている。さらに、この軽石は黒潮にのって伊豆諸島にも到着しつつある。
 

福徳岡ノ場とはどんな火山なのか

  日本の火山はプレートの沈み込み帯に形成されている。海溝に沿って海洋プレートが沈み込むと、沈み込まれるプレートの上に、弧状の火山の列ができる。日本の南では、伊豆小笠原海溝に沿って、太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込むことによって、東京から南へ、伊豆大島、三宅島、八丈島と続いていく伊豆小笠原弧が形成されている。福徳岡ノ場は、伊豆小笠原弧の火山の一つである(図1)。近年噴火を続けている西之島からさらに335 km南、東京からは約1,300 kmの位置にある。硫黄島の南南東56辧南硫黄島の北北東5劼琉銘屬砲△覲つ豌仍海任△襦3ぞ緤欅堕の海域火山データベースに、福徳岡ノ場のこれまでの噴火活動や、海洋情報部が収集してきた海底地形、地質、地震波探査、地磁気および重力などの調査結果が示されている
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/kaiikiDB/kaiyo24-2.htm)。

 

図1 東京から南に連なる伊豆小笠原弧の火山島と海底火山。伊豆大島、三宅島、八丈島のように北部は火山島が多く、南部は海底火山が多い。西之島は2013年からの噴火活動で注目されている。これらの海域火山(火山島と海底火山)は伊豆小笠原海溝から、太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込むことによって形成された沈み込み帯の火山である。(※画像をクリックすると大きな画像が閲覧できます)


  南硫黄島の北の海域には、北福徳カルデラと呼ばれる16km×10kmの海底カルデラがある(図2)。カルデラとは、巨大噴火で大量のマグマが噴き出した後に空洞ができて、そこが陥没してできた地形のことだ。南硫黄島は北福徳カルデラのカルデラ壁の一部を形成しており、福徳岡ノ場はこの北福徳カルデラ内の中央火口丘と考えられている。北福徳カルデラの海面下2 km(海底下1.5辧飽平爾砲話録滅箸猟秣・高減衰域が存在し、地殻を構成する岩石の溶融体が存在する可能性が指摘されていた(西澤他、2002)。カルデラの内部は低地震波速度、低密度および低磁化の火山砕屑物が埋めており、カルデラの基盤はすり鉢状の形状を示し、その下には低地震波速度・高地震波速度減衰域および高密度の岩石の溶融体(マグマ)が存在し、この熱により基盤の一部が熱消磁している(小野寺他、2003)。
このカルデラの中央火口丘である福徳岡ノ場は、過去にも噴火記録があり、最近では1986年に新島を形成するような噴火を起こした。しかし、その新島は波で削られ2ヶ月で海没している。さらに、2005年、2010年にも軽石を噴出する爆発的噴火をおこしている。2010年噴火後の山頂部は直径1.5 km×1 kmの北東-南西方向に伸びた楕円形をしており、水深約30mで平坦面をなしていた(図2)。そして、頂部の北側には直径約200 mの複数の火口が600 mに渡り連なっていた(伊藤ほか、2011)。これらの火口が今回の噴火にも使用されたかどうかは不明であるが、直径約1kmの東西にかっこ型をした新島が、もともと浅い福徳岡ノ場の山頂部平坦面に形成されたのは間違いないだろう。
 

図2 福徳岡ノ場周辺海域の地形図(伊藤ほか、2011)。福徳岡ノ場は南硫黄島と連続した火山体の一部と考えられる。南硫黄島の北には北福徳カルデラがあり、福徳岡ノ場はこのカルデラ内の中央火口丘である。(海上保安庁ホームページhttps://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/kaiikiDB/map/24.png(※画像をクリックすると大きな画像が閲覧できます)

 

軽石から分かること

  今回の噴火で大量の軽石が噴出して漂流した。軽石は爆発的な噴火で噴出したマグマが、急冷されて固まったものである。地下のマグマには大量のガスが溶け込んでいるが、噴火に伴って、マグマからほとんどのガスが放出される。溶岩噴出のようにゆっくりとした噴火をすると、ガスが抜けて緻密な岩石になるが、今回のような高い噴煙を形成する爆発的な噴火をすると、ガスが膨張しながらマグマが固結するため、空隙の多いスカスカの岩石(軽石)となる(図3)。空隙のため全体の密度は水よりも軽くなり、海面を漂流する。水がしみこんで空隙を満たすと沈降するが、空隙の形が複雑なため、長い期間漂流を続ける。例えば、比重2.5のマグマが発泡しても、ガスと液体が分離すると、ほぼ比重は変わらない溶岩として固まる。一方、マグマ中に含まれるガスが発泡して抜けきることができないと、マグマの体積はガスと共に膨張していき、軽石のようなスカスカの岩石となる。単純に計算すると、ガスの膨張により体積がほぼ5倍となると比重が0.5となり、今回のように水に浮く漂流軽石となる。写真で見るように軽石の中はほとんど空隙である。地下にあったマグマが、膨張して大量の軽石となったということができる。

図3 気象庁啓風丸で採取されJAMSTECで分析した軽石の一つ(サンプル番号18)を分割した写真。表面は噴火、漂流により円摩されているが、内部は発泡し、ガラスが引き延ばされて繊維状になったり、発泡してスポンジ状になったりしている。表面上の粒状に見えるのは、単斜輝石を主体とする鉱物の集合体。(※画像をクリックすると大きな画像が閲覧できます)


  2021年8月22日に、気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」は北緯25度30.3分、東経138度53.3分付近(福徳岡ノ場から約300km西北西の海上)において漂流する軽石を採取した。JAMSTECでもその中のいくつかの分析をおこなった(図3)。分析結果は2021年10月20日に行われた日本火山学会秋季大会で、「福徳岡ノ場から2021年8月に噴火した軽石(速報)」として発表された。軽石は、これまでの噴火と同様のトラカイトという組成をもつ珪長質な火山岩であった。トラカイトは、アルカリ成分が多く(Na2O酸化ナトリウムとK2O酸化カリウムの総量が10 %前後)、シリカ(SiO2重量%)成分が60-70 %の火山岩である。アルカリ成分が少なくなると通常の安山岩となる。西之島の噴火は安山岩であるのに対して、福徳岡ノ場や硫黄島のマグマはアルカリ成分が多い特徴的な組成をもつ。その違いの原因はよくわかっていないが、沈み込むプレートの不均一性に由来するものかもしれない。噴出した軽石には組成的なバリエーションがほとんどなく、一様にトラカイトの組成を示している。しかし、鉱物に含まれている成分(メルト包有物)を分析した結果、玄武岩マグマの組成を示し、今回の爆発的噴火にはマントルの深いところ(30勸平次砲ら来た玄武岩マグマが関与している可能性が示唆された。玄武岩マグマの地殻内のマグマ溜まりへの貫入が、爆発的な噴火を引き起こした可能性がある。今回のように地表に噴出していない玄武岩マグマが、黒幕として噴火に関与した例はいくつか議論されている。玄武岩マグマが熱源として地殻を融解し、安山岩マグマの噴出に関与した大山火山(Tamura et al., 2003)の例、伊豆弧において海底カルデラの成因に玄武岩マグマが関与している例(Shukuno et al., 2006; Tamura et al., 2009)などである。沈み込み帯のマントル深部(地下30勸幣紂砲任蓮高温・高圧状態で、玄武岩マグマが生成する。この玄武岩マグマが上昇してきて地殻内にとどまると、大量の熱を発生する。この熱は潜熱と呼ばれ、マグマが結晶化するときの熱である。この玄武岩マグマの潜熱が、安山岩の地殻を溶かす、または固結した安山岩をリモービライズする熱源となる。過去に地下で固まったトラカイトは、新たに上昇してきた玄武岩マグマの潜熱により再融解して、大量の軽石を生成した可能性がある。今後の噴火予測・減災に資するためにも、福徳岡ノ場の軽石を形成したトラカイトマグマの成因を追求していきたい。

引用文献

  • 海上保安庁(2021)海域火山データベース、https://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/kaiikiDB/kaiyo24-2.htm
  • 伊藤弘志、加藤正治、高橋昌紀、斉藤昭則(2011)伊豆-小笠原弧、福徳岡ノ場火山における2010年噴火後の火山地形 海洋情報部研究報告 第47号 平成23年3月18日、9-13。
  • 西澤あずさ、小野智三、坂本平治、松本良裕、大谷康夫(2002)海底火山「福徳岡ノ場」における海底地震観測、水路部研究報告、38、101-123。
  • 小野寺健英、加藤剛、瀬尾徳常(2003)重力・地磁気異常から推定される福徳岡ノ場付近の地殻構造 海洋情報部研究報告第39号平成15年3月28日、23-31。
  • Shukuno, H., Tamura, Y., Tani, K., Chang, Q., Suzuki, T. & Fiske, R. S. (2006). Origin of silicic magmas and the compositional gap at Sumisu submarine caldera, Izu-Bonin arc, Japan. Journal of Volcanology and Geothermal Research 156, 187-216.
  • Tamura, Y., Yuhara, M., Ishii, T., Irino, N. & Shukuno, H. (2003). Andesites and dacites from Daisen volcano, Japan: partial-to-total remelting of an andesite magma body. Journal of Petrology 44, 2243-2260.
  • Tamura, Y., Gill, J. B., Tollstrup, D., Kawabata, H., Shukuno, H., Chang, Q., Miyazaki, T., Takahashi, T., Hirahara, Y., Kodaira, S., Ishizuka, O., Suzuki, T., Kido, Y., Fiske, R. S. & Tatsumi, Y. (2009). Silicic magmas in the Izu-Bonin oceanic arc and implications for crustal evolution. Journal of Petrology 50, 685-723.
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(2021年11月22日掲載