教師巡検(2008秋田)C班:地学教育の素材としての男鹿半島 

 

案内者:藤本幸雄・林信太郎・渡部 晟・渡部 均・栗山知士・小田嶋博・西村隆・阿部雅彦
参加者:松田義章・八島道子・鹿野勘次・小林治朗・小滝篤夫・細谷政夫・大友幸子・中井 均・飯島 力・成田 盛・青木秀則・河本和朗・大串健一・古野邦雄・長澤一雄・大場 總・北沢久和・山本和美・夏井興一・藤原 崇・佐藤和子・佐々木修一・佐々木 衡・佐藤三七(25名)

 

【案内者報告】


 
 快晴の入道崎にて

晴天に恵まれた中,参加者33名(全国からの会員18名,秋田地学教育学会員7名,案内者8名)が大型バス1台で,地質学の自然博物館といえる男鹿半島を回った.11カ所の見学地点での観察,及びバスの中での解説を通して,東北地方日本海側のおよそ9000万年の地史を代表する地質や地形に触れることができ,たいへんエキサイティングな巡検になった.
最初の見学地点の寒風山では,噴火や火山地形の変遷について,案内者の一人,秋田大学の林教授による解説があった.スケッチブックにクレヨンで描いたイラストを用いた手法は,わかりやすく,しかも風に強いというメリットがあり,参加者一同大喜びしながら見学した.この手法は地元小学生に対する出前授業で使用しているそうで,いろいろな野外観察の際に応用できそうである.

 寒風山山頂でスケッチブックを使っての説明。

 

その後,午前中は安田(あんでん)海岸,西黒沢海岸,入道崎と,時代をさかのぼる順にたどって見学を行った.安田海岸では,高さ20m以上の海食崖が数kmにわたって続く様子に圧倒されながら,第四紀の鮪川(しびかわ)層,潟西層を見学した.ここでは,広域火山灰の発見・同定により,地層の堆積年代が詳しく求められており,例えば海岸の砂浜を数十m(白頭山−男鹿火山灰と阿蘇1火山灰の間)を歩くだけで,20万年分歩いたことになると知り,地質時代のタイムスケールを実感できた.なお,今回の地質学会にあわせ,山形大学のグループが表土を除いていてくださったようで,たいへんよく火山灰層を観察することができた.
 男鹿半島の地質見学ポイントには,男鹿市教育委員会による説明看板が設置されており,一般の観光客にも男鹿半島の地質をわかりやすく解説している.今回は入道崎の説明板の前で,参加者全員が仲良く集合して写真撮影した.
 午後は男鹿半島西海岸を南下しながら,目潟火山,戸賀火山,海成段丘について,また,門前層や台島層の第三紀火成岩類や化石を含む地層の堆積環境について,最近の研究成果をもとにした解説を聞くことができた.続いて,南海岸を東に向かい,門前,台島,女川(おんながわ),船川,脇本と,代表的地層の模式地を古い方から新しい方へとたどった.鵜ノ崎海岸の波食台では女川層の硬質頁岩を割って魚化石を探したが,時間不足もあってなかなか状態のよい化石がみつからなくて残念だった.その後16時過ぎに男鹿半島での見学を終え,出発地点の秋田大学には17時半に到着した.
本来は2日以上必要な行程を1日で回るというハードな日程であったが,参加者はみんな積極的に見学し,核心をついた質問等も多かった.男鹿半島は地質を学ぶ研究者が一度は見学に来る場所であり,私も何度か訪れていたが,今回の見学会では,最新の研究成果により,地層の年代をはじめ,実に多くの新しい知見に触れることができた.また,地学教育という視点からも,児童生徒への地質現象の見せ方,説明方法など,参考になる点が多く,たいへん有意義な見学会であった.


(秋田中央高校 渡部 均)

 

【参加者感想】教えてはいけない男鹿半島

 

秋田地学教育学会への入会申し込みをした翌日に,日本地質学会第115年学術大会見学旅行に参加させていただいたうえ,感想文を書く初仕事を頂戴するなんて…どう表現したらよいのでしょう.林信太郎先生,ありがとうございます.
私は,大学院生であり小学校教員でもあります.ですので,今回の男鹿巡検は二つの視点から考えることができました.この感想文は,形式にとらわれず自由に書いてよいとのことだったので,地質学的に見てずれた意見を述べるかもしれませんが,それは初仕事ということでお許し下さい.
まずは,学生の目から見た男鹿半島です.まさに,男鹿半島は地質の博物館です.学ぶべき点が無数にあります.半島を回るだけで,これだけ連続した地層が観察できるなんて他地域から調査に訪れる方々が多いのもうなづけます.実は,大学院に来るまでこういう事実を知りませんでした.ゴジラ岩も,今回初めて見ました.秋田県民なのに,身近すぎて気づかなかった自分が恥ずかしくもありました.
次に,小学校教員から見た男鹿半島です.これは,もしかしたら「教えてはいけない」半島なのかも知れません.鮪川層の傾斜,亜炭層に挟まれた戸賀の軽石,西黒沢の暖かい海に生息していた生物の化石,何段にも並ぶきれいな段丘面,ツインピークの寒風山…これらに「なぜ」をつけたら,子どもたちは自由に予想や仮説を立て,自分たちなりに調べようとするような気がしました.いつも見ている風景にも,科学的に価値のある謎がある.そんな経験をさせ,そんな眼をした子どもを育てるジオパークに男鹿半島がなったら素敵だなと感じました.
最後に,丁寧なご説明とお世話をしてくださった秋田地学教育学会の諸先生方と,生まれて初めて「学会」というものの雰囲気を味わわせてくださった日本地質学会の皆様にあらためて感謝申し上げ,初仕事を終えさせていただきます.

(秋田大学大学院教育学研究科教科教育専攻理科教育専修 佐々木修一)