2014年 地質の日記念イベント!!開催報告

街中ジオ散歩 in Tokyo 「下町の地盤沈下と水とくらし」

1. はじめに
   地質の日の街中ジオ散歩も今年で3回目になります.1回目の千代田区,2回目の石神井川に続いて,今回は江東区の地盤沈下と内水管理をテーマに実施しました.


図1 街中ジオ散歩 徒歩ルート

日時:2014年5月10日(土)
参加者数:25名(うち小学生1名)
コース:10:00清澄公園集合→水門管理センター・清澄排水機場→清澄庭園・公園(昼食)→扇橋閘門→地下鉄→小名木川・仙台堀川→南砂地盤沈下観測所→南砂町駅18:00解散(図1)
案内者:中山俊雄氏(東京都土木技術支援・人材育成センター),小松原純子氏(産業技術総合研究所)
幹事:中澤 努,荒井 良祐,細根清治,細矢卓志,緒方信一,長谷川貴志,原 弘
主催:日本地質学会・日本応用地質学会
後援:東京都地質調査業協会
協力:東京都江東治水事務所水門管理センター,東京都土木技術支援・人材育成センター,日本地質学会関東支部

 

2. 街中ジオ散歩の状況
   当日は晴天に恵まれ,参加者一同,楽しく出発しました.午前中は排水ポンプ場を見学しながら,水門管理センターの方々から,江東区三角地帯は地盤沈下のため,きめ細かな内水管理が必要とされるとの説明を受けました(写真1).そして近隣の清澄庭園を見学しました.この庭園は石の博物館とも言われています.午後は,扇橋閘門にて所長さんから,内水管理のために小名木川の水位を調整する必要から,パナマ運河のような水面のエレベータを水門操作で行っていることを学びました(写真2).説明を受ける最中にも多くの船が行き交い,水門の開閉と水位の上昇下降のダイナミックさに圧倒されました.その後,小名木川が周辺の地盤沈下のために天井川となり,堤防の嵩上げを行った跡や,現在の地盤沈下の状況,地盤沈下観測所での実際の観測方法,観測施設自体が大きく浮き上がって観測に苦心したことを学びました(写真3).地盤沈下標柱ではかなり高いところに高水位が示され,標高がマイナスであることを改めて実感しました.

写真1 清澄排水機場で説明を聴く様子
写真2 扇橋閘門での記念撮影
写真3 地盤沈下観測所

 

3. 参加者の方々の声
   今回は少人数グループで行動し,担当スタッフが出来るだけこまめに説明をしたこと,そして徒歩だけでなく地下鉄も利用したという点が昨年までと大きく異なる点です.それでも徒歩距離は7 kmに及び,時間も延長となり,少しタフな見学会でした.
   アンケートでは総じて好印象の結果でしたが,グループの列が長くなり最後尾の方々が必ずしも案内者の説明を十分に聴講できなかったこと,徒歩距離が長く説明も多かったため時間が超過したこと,散策道では自転車との交雑での安全管理を改善すべきであることが大きな反省点です.また2,000円の会費についても少し高いのではとの意見が複数有り,今後,あり方の検討が必要と感じました.以下に10人の方々から頂いた声を掲載します.



   昨年に続き2回目の参加でしたが,私にとっては今回も大変勉強になる見学会でした.東京の自然について,地形と地質を高校生に指導していて,今年度は低地について少し詳しく学びたいと考えておりました.地盤沈下の実態や,水門管理と水害を防ぐ為の努力などは個人で見て歩くだけでは分からないことを解説して頂いたり,業務の実際を見せて頂くなどして大変興味深く,今回学んだことをぜひ授業に生かしたいと考えております.また低地を流れる川の歴史なども面白く,出来ればそういった資料も添付資料に入れて頂ければなお理解が深まると感じました.
(菊地さん,50代,女性)

   下町の地盤沈下なんて今まであまり考えたことがなかったため,今回のジオ散歩で地盤沈下の実態を知ることができて大変有意義でした.また,水門管理センターや扇橋閘門など,普段見る機会のない施設を見学できて楽しかったです.
(森田さん,20代,女性)

   江東デルタ地帯の地形と水門管理の実際を見ることができ興味深い見学会でした.現地を歩くと緑も多く高い建物もあるので,海面以下の土地という実感がわきません.耐震護岸と水位低下で守られているのでしょうが,できることなら高い所に住みたいものです.揚水ポンプや水門の見学だけでは地質の香りが乏しいということで,石の解説や清澄庭園の景石の見学も組み込まれていました.見学ポイントの移動に一部地下鉄を利用するなど配慮がありましたが,私には少しきつめのコースでした.
(Fさん,70代,男性)

   全体に非常に楽しく見学させていただきました.前から江東三角地帯(江東デルタ)と呼ばれる地域には興味がありましたが,自ら現地見学するわけでもなく,これまで漠然と見過ごしてきましたが,今回は好機到来とばかり参加いたしました.やはり,地域に暮らす方や管理される方から直接お話を聞けるのは,貴重な体験になりました.個人的には仕事柄,山岳地に行く機会が多いため,都内の内水対策について直接話を聞く機会もなかったこともありますが,自分の日頃の無知を自覚するとともに,非常に勉強になったと感じています.改めて企画してくださった学会の関係者に深く感謝いたします.今回吃驚したのは,江東三角地帯の地盤の高さが,東京湾の平均満潮面以下にありながら,水門管理センターを含めて,内水対策として綿密に流域が管理され,住民でもこの管理実態を知らない人がいるかもしれない中,日常的に都民の安全な暮らしを守り続けていることが実感できたことです.センターで働く方も職業的な生きがいを感じておられるのではないでしょうか.江東三角地帯は東側河川と西側河川に大きく区分され,特に東側河川は平常時水位をA.P.-1.0 mに管理されているとのことで,小名木川の扇橋閘門の操作状況も直接観察することができて,仕事などの通行の他に,観光ルートとしても利用していることに,当たり前のように感心しました.また,今回は見学ルートにはありませんでしたが,デルタ地帯東端の旧中川と荒川とを結ぶ荒川ロックゲートの閘門が完成しており,隅田川から荒川にかけての流路が確保され,震災時の救援物資の輸送路としても利用される計画のようです.全体として,見学ルートが徒歩が主体であったため,夕方の終了時にはジョッキングで長距離を走った疲労感がありましたが,満足した1日でした.街中ジオ散歩は,今回で3回目の参加になりますが,参加の度に日頃身近に接している街角なのに,歴史について意外と知らないことを改めて実感するので,これからも機会があれば参加して,住民の暮らしと密着した地域環境や地盤・地下水について確認できればと考えています.
(千田さん,50代,男性)

   居住地が近く,今回の話題に非常に興味を持って参加しましたので,とても身になるものでした.
(Nさん,40代,男性)

   地盤沈下や厚い沖積層の分布,埋没谷の存在などは,知識として理解してはおりましたが,いざ目で見て説明を受けると,深く理解することができ,また徒歩で見学することにより,そこに住むための努力や工夫を知ることができました.景観を求めて堤防を低くし,水位低下方式を採用した地域においては,美しく整備された水路や,遊具が取り揃えられた多くの公園に出くわし,私自身,ジオ散歩終了後に娘と立ち寄った公園では,同じように遊びに来た親子と楽しく過ごす中で,そこが干潮水位より低い地域であることをうっかり忘れてしまうほどでした.多くの人の努力によって,日々の生活を穏やかな気持ちで過ごすことができるようになった一方,恐怖感は薄れてしまっていくような気がします.だからこそ,今回のような子供も参加できるイベントには,地域の子供達にもっとたくさん参加してもらい,自分たちがどういうところに住んでいるのかを感じ取ってもらいたいと思いました.
(細野さん,30代,女性)

   『下町低地の地盤沈下と水とくらし』というテーマのもと地質とどう関係があるのかな?と疑問半分,期待半分で参加しました.下町の地盤沈下量は場所により異なっており,地下水と天然ガス汲み上げ地点周囲の水位低下だけでは説明できず,柱状コア採取や探査,研究により今より100 mも海面低下をしていた氷河期の谷が深い地点ほどその後の軟弱堆積層が厚く,今の地盤沈下量に影響しているということを講師の方々の明快な解説で知ることができ,「地質調査」の重要性を理解できました.川の水位よりも明らかに低い道路地盤面を比較できる橋(白河辺り)があり東京都治水事務所の守人(まもりびと)と,莫大な維持費のお陰で今の生活が享受できている事を午前中に勉強した.堤防と日々の治水管理で守られている事をどれだけの人々が知っているのだろうか.
(滝沢さん,40代,男性)

   毎日の通勤下車駅木場に降りて,朝,水路より低い地面ってどういうこと?と思いながら坂の下の事務所に12年通勤しておりました.会に参加して合点できました.ポンプで調整しなければならない運河も,知らずに渡っておりました.会の後は,自分の居る環境をよく見て理解することの大切さを感じつつ,地面下のデリケートなことに思いをはせながら,バランスの大切さを再度確認することができ,今までとは違った見方ができるようになりました.会社のビルの窓から見ている風景も,水門管理センターの方々の制御室での日々に守られていることも良く解り,人は人に守られて日々無事に過ごせていることに感謝しつつ,日中過ごさせていただいております.皆様ありがとうございました.来年もぜひ参加したいと今から楽しみにしております.
(山野辺さん,50代,女性)

   東京のこの辺りを東部低地帯というのか?と,なんでも確かめようと歩く日となった.大正12年の関東大震災では中川の軟弱な地盤に多く災害ががでたという,その扇状地帯/江東三角デルタ地域というのか.明治以降は地下水の汲み上げが盛んで地盤沈下していく.何ごとも急激に大規模にとなると大変なことになるのだなぁ.その変化に対応した街は興味深かった.東と西では方針に違いがあり,それが地下鉄移動で街散策した理由だったのか?なんだか歩いて歩いて認識さだかでないところがわたしの感想となった.このあたりに掘られた家庭向けの井戸はすべて打ち込み式でパイプだったのだろうなぁ.掘り抜き丸井戸というわけにはいかない.なにしろ沖積地,というのがその最大の特性である.ハードウォーキングだった.
(60代,女性)

   0メートル地帯を初めて実際に歩いて見たが,標高の標識を見て地盤沈下の大きさを感じることができた.排水の設備も見学できてよかったです.
(Kさん,40代,男性)

謝辞:この徒歩見学会の開催にあたって,案内をしてくださった中山俊雄氏,小松原純子氏,並びに一般社団法人東京都地質調査業協会,東京都水門管理センター,土木技術支援・人材育成センターの皆様には多大なご協力を頂き大変お世話になりました.また日本地質学会関東支部幹事会の皆様,日本応用地質学会の幹事の皆様には当日スタッフとして運営にご尽力いただきました.心から感謝申し上げます.

 

(文責:緒方信一)