会長あいさつ

日本地質学会会長就任に当たって
私はこれまで本学会に軸足を置き,主にオフィオライトの研究を続けてきました.本学会執行部を務めた経験を踏まえ,会長に立候補したところ,会員の皆様の意向投票で大きなご支持をいただき,本年5月19日の理事会で会長に選出されました.任期は2年間です.どうぞよろしくお願いいたします.
日本地質学会は来年で1893年の創立以来120周年を迎えます.欧米諸国の地質学会の創立年をみると,英国は1807年,フランスは1830年,米国は1888年であり,これらと並んで19世紀から存続するアジア最古の伝統ある学会です.最初は欧米の地質学を学び,それらを応用して日本の地質を調査・解釈していましたが,最近約30年間は付加体構造論など日本発の地質学を確立し,英語の国際学術誌Island Arcを発行するなど,世界に向けて独自の成果を発信するようになりました.しかし,日本国内における地質学の社会的プレゼンスはまだ不十分であり,学校における地学教育もなかなか普及しませんでした.
そうした中,昨年東日本大震災が発生し,地球に関する諸科学を発展させることの重要性が広く国民の間に理解され始めてきました.「想定外」の震災によって地球科学全体が大きな見直しを迫られており,活断層や過去の地震・津波記録への社会的ニーズが非常に高まっています.また,地球環境や気候変動への懸念が広まるなかで,過去の地質学的記録への関心も高まり,ジオパークや地学オリンピックが注目を集めています.今,地質学を多面的に発展させ,社会に大きく貢献すべき時期が来ていると感じます.この時期に本学会の会長に就任することになり,責任の大きさを痛感しております.幸いなことに,木村 学元会長,宮下純夫前会長のもとで本学会の法人化が行われ,我々が社会的に活動するための法的基盤は整っています.今期は,本学会初の外国人副会長となる英国人のウォリス サイモン(Simon Wallis)氏および前期から引き続き副会長を務める渡部芳夫氏とともに,執行理事,理事会,各支部,各専門部会の皆様,そして事務局職員の皆様のご協力をいただきながら,本学会の発展のため,共にがんばりたいと思います.
今年度の事業計画につきましては,既に総会でご承認いただいたところでありますが,ここでその内容を簡単に申し上げると,(1)東日本大震災に鑑みた防災・減災への貢献,地質学的調査・研究,災害に関する地質学的知識や情報の提供・発信,自然災害に関する地学教育の推進,(2)本年9月の大阪大会の成功,(3)本学会の成果を世界に向けて発信する英語書籍刊行への協力と英語ホームページの充実,東アジアなど各国の学会との連携・交流強化,(4)日本標準規格(JIS)ならびに国際標準の普及と日本語の地質学用語の整備,(5)地学教員および地学実施校の大幅増をめざした要望活動,教材の提供など地学教員への支援,地学オリンピックへの支援強化,(6)社会の地学リテラシー向上のためホームページやソーシャル・ネットワーク・サービス,広報誌,リーフレット,講演会などを通じた情報発信の強化,ジオパーク運動への支援強化,(7)地質技術者教育の充実に向けて各支部や関連学会と協力・共同した取組強化,(8)学会の組織活動強化.支部や専門部会の活動の活発化,理事会の活性化と役割強化,会員サービスの充実(就職支援,地質技術者の継続的な専門教育など),若手の人材育成とシニア人材の活用,といった施策を鋭意実施していく方針です.いわゆる団塊世代が退職を迎える時期のため,会員数の減少を食い止めるのはなかなか難しい状況ですが,若い人たちを本学会に引き込む努力をして行きたいと思います.しかし,何と言っても学会の魅力は,しっかりした学問的基礎をふまえた熱意あふれる研究発表や真剣な議論です.会員の皆様には,まず「学問第一」で自由な科学的興味に基づく地質学の研究をどんどん進め,広く世界に知識を求めるとともに会員相互のコミュニケーションを密にして切磋琢磨し,研究レベルを向上させることをお願いいたします.この点さえしっかりしていれば,決して学会が衰退することはなく,やる気のある若い人たちが集まってくるものだと思います.
本学会の会員名簿の冒頭に,2003年制定の本学会の「倫理綱領」が掲載されています.そこでは,まず「会員は,科学的真理を明らかにすることを目的として,誠実かつ真摯に地質学および関連科学の研究・教育および調査を行う」と宣言し,科学者としての倫理,知的交流の確保,人類と社会への責務,地球環境への責務,次世代への責務という5つの綱領を掲げています.また,2011年制定の「行動規範」では,説明責任,公益性,中立公正,誠実性などの規範を定めています.会員の皆様には,社会の構成員として必要なこれらの倫理綱領と行動規範を守って研究活動を進めていただくよう,お願い申し上げます.
2012年6月1日
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