Vol. 23  Issue 1 (March)

 

通常論文

[Research Articles]

1. Subsidence of the Miyako-Sone submarine carbonate platform, east of Miyako-jima Island, northwestern Pacific Ocean
Kohsaku Arai, Hideaki Machiyama, Shun Chiyonobu, Hiroki Matsuda, Keiichi Sasaki, Marc Humblet and Yasufumi Iryu

北西太平洋宮古島東方に発達する炭酸塩プラットフォームの沈降運動
荒井晃作・町山栄章・千代延 俊・松田博貴・佐々木圭一・Marc Humblet・井龍康文


北西太平洋宮古島東方に位置する宮古曽根炭酸塩プラットフォームの北西側斜面において詳細な地形マッピングおよび無人探査機ハイパードルフィンによる潜航調査を実施した.地形調査の結果,宮古曽根北西斜面には約140 m,330 m,400 m,680 mを外縁水深とするテラスが発達していることが判明した.また,琉球弧を横切る方向の断層運動によって形成されたと考えられる複数の北西—南東方向のリニアメントが形成されていることを確認した.無人探査機により水深519 mの斜面から121 mのプラットフォーム上までの潜航調査を行った.ビデオカメラの画像から,テラスの外縁と斜面の上部には固結した炭酸塩岩の露頭が存在するが,斜面下部は生物砕屑物からなる未固結の現世の粗粒砂に覆われていることが確認できた.露頭から採取した岩石からは,中〜後期更新世の年代値を示す石灰質ナンノ化石が産出した.これらの年代値や岩相は,採取した岩石が琉球弧に広く分布する琉球層群(琉球石灰岩)に相当することを示す.なお,潜航調査では,後期中新世〜前期更新世に形成された島尻層群に相当する珪質砕屑岩は見つからなかった.調査地域では,同一の堆積環境下で同じ年代に堆積したと考えられる炭酸塩岩が,西落ちの正断層によって西側に向かって水深を増している.宮古曽根炭酸塩プラットフォームの沈降運動はこの様な断層運動に伴うものである.沈降運動の開始を正確に議論することは難しいが,少なくとも0.265 Ma以降にもこの様な沈降運動が続いていることは確実である.
 
Key Words: bathymetric survey, calcareous nannofossils;Cenozoic, Ryukyu Group, Ryukyu Islands;subsidence, tectonics
 

2. Carbon isotope stratigraphy of Torinosu-type limestone in the western Paleo-Pacific and its implication to paleoceanography in the Late Jurassic and earliest Cretaceous
Yoshihiro Kakizaki and Akihiro Kano

古太平洋西部の鳥巣式石灰岩(ジュラ紀後期〜白亜紀初期)の炭素同位体比と古海洋学的な示唆
柿崎喜宏・狩野彰宏


ジュラ紀後期(キンメリッジアン期後期)から白亜紀初期(ベリアシアン期前期)にかけて古太平洋西部で堆積した鳥巣式石灰岩から,はじめて体系的な炭素同位体層序のプロファイル(δ13C 値)が示された.鳥巣式石灰岩のδ13C プロファイルは3区間の同位体異常にもとづき,同時期のテチス海のプロファイルとの地域間対比が可能である.さらにキンメリッジアン期後期の鳥巣式石灰岩のδ13C 値はテチス海のδ13C 値に比べて1‰ほど低く,その地域差はチトニアン後期に消失することが判明した.このことは,ジュラ紀後期に大陸移動に伴って海洋循環が活発になり,溶存無機炭酸のδ13C 値が汎世界的に均質になったことを示唆している.
 
Key Words: carbon isotope, chemostratigraphy, Japan, Late Jurassic to earliest Cretaceous, paleoceanography, Paleo-Pacific, Torinosu-type limestone
 

3. A new approach to develop the Raman carbonaceous material geothermometer for low-grade metamorphism using peak width
Yui Kouketsu1, Tomoyuki Mizukami, Hiroshi Mori1, Shunsuke Endo, Mutsuki Aoya, Hidetoshi Hara, Daisuke Nakamura and Simon Wallis

半値幅を用いた低変成度岩に適用可能な炭質物ラマン温度計の開発
纐纈佑衣・水上知行・森 宏・遠藤俊祐・青矢睦月・原 英俊・中村大輔・Simon Wallis


西南日本の6地域(四万十帯,秩父帯,黒瀬川帯,三波川帯,美濃–丹波帯)で採取された堆積物起源の付加体堆積岩および変成岩19試料を用いて,岩石中に含まれる炭質物のラマン分光分析を行った.分析に用いた岩石はすでに変成温度が見積もられており,その温度範囲は165 ℃から655 ℃である.低温領域における炭質物のラマンスペクトルは,いくつかのD-band(DefectまたはDisorder構造に起因)が顕著であり,G-band(Graphite構造に起因)は~280℃以上で確認された.400 ℃以上ではG-bandの強度が他のバンドに比べて有意に高くなり,650 ℃以上でG-bandのみになった.この結果は,変成温度の上昇に伴い,炭質物が非晶質から結晶質な構造へと変化したことを示す.この構造変化に伴う炭質物ラマンスペクトルの変化を定量的に評価するため,ピーク分離方法を詳細に検討し,各温度領域で安定な解を得る適切な分離手法を確立した.分離したピークの変数と見積もられている変成温度との相関を調べた結果,150 ℃から400 ℃付近において,D1-bandとD2-bandの半値幅と変成温度の間に負の相関があることが明らかとなった.また,これらの関係式を導出することによって,半値幅を用いた新しい炭質物ラマン温度計を提案した.この温度計は,従来の炭質物ラマン温度計では正確な温度見積もりが困難であった低温領域(< 〜300 ℃)をカバーしており,付加体堆積岩から変成岩をまたいで,簡便かつ高精度な温度見積りを可能にした.
 
Key Words: carbonaceous material, FWHM, geothermometer, low temperature metamorphism, Raman spectroscopy
 

4. Abrupt Late Holocene uplifts of the southern Izu Peninsula, central Japan: Evidence from emerged marine sessile assemblages
Akihisa Kitamura, Masato Koyama, Koji Itasaka, Yosuke Miyairi and Hideki Mori

中部日本,伊豆半島南端における後期完新世の突発的隆起:離水した海洋生物群集からの証拠
北村晃寿・小山真人・板坂孝司・宮入陽介・森 英樹


伊豆半島南端の海食洞内の隆起した海洋固着動物群集は保存状態と種構成から,5つの帯に区分される.最上位のI帯(海抜2.7-3.5m)は塊状石灰岩を呈し,イワフジツボとゴカイの一種のヤッコカンザシの棲管から成る.II帯(海抜2.35-2.7m)は保存状態の良いイワフジツボが優占する.III帯(海抜2.0-2.35m)は,主にイワフジツボとヤッコカンザシの棲管から成る.IV帯(海抜1.6-2.0m)は,非常に新鮮なイワフジツボとヤッコカンザシの棲管から成る.最下位のV帯(海抜1.0-1.6m)は,非常に新鮮なケガキとヤッコカンザシの棲管が共産する.14C年代測定の結果と現生の固着動物の帯状分布は,調査地域が西暦570-820年,西暦1000-1270年,西暦1430-1660年にそれぞれ0.9-2.0m,0.3-0.8m,1.9-2.2mの隆起があったことを示す.
 
Key Words: emerged sessile assemblages;Holocene;Izu Peninsula;uplift events
 

5. Chrome spinel in normal MORB-type greenstones from the Paleozoic–Mesozoic Mino terrane, East Takayama area, central Japan: Crystallization course with a U-turn
Takashi Agata and Mamoru Adachi

岐阜県東高山地域に分布する美濃帯中古生層中のノーマルモルブ型緑色岩のクロムスピネル: Uターンのある晶出経路
縣 孝之・足立 守


東高山地域のN-MORB型緑色岩中に産する斑晶クロムスピネルのMg/(Mg+Fe2+),Cr/(Cr+Al)及びFe3+含有量はそれぞれ0.54〜0.77,0.21〜0.53,0.07〜0.22 p.f.u. (O=4)と変動する.スピネルの組成は,斑晶鉱物の組合せの間で有意の差が認められた.オリビン–スピネルの組合せでは,スピネルはCrに富むものからAlに富むものまで広い組成範囲を示し,比較的Fe2+とFe3+に乏しい.オリビン–斜長石–単斜輝石–スピネルの組合せでは,比較的高いCr/(Cr+Al)を持ち,Fe2+とFe3+に富んでいる.オリビン–斜長石–スピネルの斑晶を持つ玄武岩は,Alに富むスピネルとFe2+とFe3+に富むスピネル双方を含有する.オリビン–スピネル平衡関係は,オリビン–スピネル組合せのスピネルが分別作用の進行とともにCrとFe2+に富むものからAlとMgに富むものへと組成を変化したことを示唆する.一方,オリビン–斜長石–単斜輝石–スピネルでは,分別とともにCr/(Cr+Al)は増加し,Mg/(Mg+Fe2+)は減少するという逆の変化が示される.スピネル全晶出経路は,Mg/(Mg+Fe2+)–Cr/(Cr+Al)変化図上でUターンを見せる.折返し点はオリビン–斜長石–スピネル組合せのスピネル組成領域にあり,Uターンは斜長石晶出が開始した結果と解釈される.
 
Key Words: chrome spinel, crystallization course, greenstone, N-MORB, Paleozoic–Mesozoic Mino terrane, zoning of chrome spinel
 

 

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http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.2014.23.issue-1/issuetoc


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