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地質年代表における年代数値―その意味すること

兼岡一郎(前学術会議地質年代小委員会委員長、
元IUGS国際地質年代小委員会副委員長)

1.はじめに

IUGS (International Union of Geological Sciences; 国際地質学連合)では、ICS(International Commission on Stratigraphy; 国際層序委員会 )から提案されていたInternational Stratigraphic Chart(地質系統・地質年代表; 以後ISCと略記)におけるQuaternary(第四紀)の始まりの境界を、GelasianとPiacenzianとすることを2009年6月に承認した。その境界の年代数値としては2.588 Ma(1 Maは100万年前を意味する)とされており、以前にQuaternary境界として割り当てられていたCalabrian底部の年代数値よりは約78万年古くなっている。わが国でもこの経緯を踏まえて、地質年代関連分野の各学協会から推薦された委員によって構成された委員会で、国際規約に沿ったQuaternaryの定義などを受け入れることを決め、その件に関して周知徹底が計られた(奥村, 2010など)。しかし、その過程において、地質年代表における年代数値の意味の詳細についての理解が、わが国の研究者間で必ずしも同じではない様子が見受けられた。さらにそうしたことが要因となって生じたと考えられる事例を、私自身の周囲でも経験することになった。そのため、10年前まではICSの中の小委員会のひとつとして存在していたSOG(Subcommission on Geochronology、国際地質年代小委員会)に在籍したことのある立場から、ISCに付された年代数値を利用する人たちが、それらについて的確な取り扱いをされるようにその意味を説明しておきたい。

2.地質年代表につけられた年代数値とは?

図1.International Stratigraphic Chart(国際地質系統・地質年代表)(ICS2009)中、 Holocene からLower Cretaceousまでの部分。(International Commission on Stratigraphy, 2009)
GSSP(Global boundary Stratotype Section and Point; 国際標準模式層断面及び地点)の欄で鋲型の印がついているのは、各地質境界においてGSSPが定義されている部分。

ここでは、ICSが2009年に発行したISC(ICS2009と表記)に基づいて解説することにする(ICS, 2009)。

図1には、ICS2009のうちLower Cretaceous(下部白亜紀)から Holocene(完新世)までの部分、図2では、Precambrian(先カンブリア時代)の部分を示している。これらの図を注意してみると、(a)Neogene(新第三紀)からHolocene(完新世)までの期間、(b)Paleogene(古第三紀)以前でCambrian(カンブリア紀)までの期間(図1ではJurassic(ジュラ紀)以前は示していない)、(c)Cambrianより古いPrecambrianの期間で、それぞれ年代数値の表示の仕方が異なっていることが分かる。(b)については多くの年代数値に±の値が付けられているが、(a)と(c)の数値にはそれがつけられていない。そのことは、それぞれの数値が推定されている方法が異なり、数値自体が示す意味も異なっていることを反映している。すなわち同じ地質年代表の中でそれにつけられている年代数値の意味が異なるということで、そのことを考慮せずに与えられている数値をそのままの形で細かい議論などに用いると、無用の混乱を生じかねない。内容としては、(a)は天文年代に基づいた値、(b)は放射年代データに基づいた値、(c)では年代数値自体が各地質境界を定義している。

(a)で採用されている天文年代は、ユーゴスラビアの地球物理学者M. Milankovitchが20世紀初めに提唱したモデルを基本としている。彼は地球の気候変化は北緯65度における日射量の変化と対応し、それは地球の公転軌道の離心率、地軸の傾き、地軸歳差運動の変動周期の組み合わせに支配されているとした(Milankovitch cycle)。その後、地球の軌道要素の変化に関しては、地球と月や他の惑星などの影響を考慮してさらに詳細に調べられてきた。一方、1970年以降に詳しく研究されるようになった海洋堆積物中の底生有孔虫の殻などの酸素同位体比から推定された過去の海水温度変化などと、Milankovitch cycleがよい対応をすることが明らかになってきた(例、Shackleton et al. 1990)。その対応関係を利用することにより、海洋堆積物から推定される地質年代の境界の年代値を推定することができる。これが天文年代を利用した手法であり、ICS2009のNeogeneより新しい地質年代に対しては、この方法により推定された年代数値が採用されている。この方法では年代数値は地球軌道要素の計算値で与えられ、数値としては非常に細かい年代値を与えることができる。しかし、天文年代は地表での周期的な気候変化はMilankovitch cycleのみによることを前提としており、誤差のつかないモデル年代と考えるべきである。

図2.ICS2009中で、Precambrianに相当する部分。(International Commission on Stratigraphy, 2009)
GSSP, GSSA(Global Standard Stratigraphic Age; 国際標準層序年代)の欄で時計印がつけられているのは、数値年代で定義された部分。

これに対して(b)では、できるだけGSSP(Global boundary Stratotype Section and Point: 国際標準模式層断面および地点)ないしそれに相当する場所において、各層序境界を挟む上下の地層から岩石・鉱物・火山灰など放射年代測定が可能な試料を採取して年代測定を行い、それらの値を内挿して層序境界の年代を推定している。各層序の地質年代は示準化石などによって定義されているが、一般的には化石そのもので放射年代測定をすることは難しいので上記のような手法をとらざるを得ない。年代測定値は誤差を伴うと共に複数のデータを扱うので、それらをあわせた誤差が算出される。現在こうした手法によって得られた年代の誤差としては、その年代が数億年の古さをもつものでも0.1〜0.2 %以下におさえることはかなり難しい。また図1において(b)の範囲にあるものでも、±がつけられないままの年代値しか与えられていない境界がある。それらはその境界での年代値を推定するために、放射年代測定を行うために適した試料が十分に得られなかったことなどにより、上下の境界の年代値を考慮して推定した概算値である。

こうした地質年代表において、年代数値に誤差が付けられるようになったのはそれほど古いことではなく、また一般的なことでもない。筆者の知る限りにおいては、かつて国際地質年代小委員会の委員長だったG. Odinが私案として報告している年代表(Odin, 1994)で採用しているのが、最も早い例である。それ以前に提案されていた地質年代表(例, Harland et al. 1990)に与えられている年代数値についても放射年代などのデータを基に推定されていたはずだが、その当時は基になるデータ数などが限られていて統計誤差を算出するまでに至らなかったか、あるいは地質年代表に用いる年代数値に誤差をつける意義を認めなかったことがその理由かも知れない。実際、アメリカ地質学会から2009年に発行された地質年代表でも、各地質境界に与えられている年代数値は高々3桁の有効数字しか表示されておらず、誤差はつけられていない(Walker and Geissman, 2009)。

一方、Precambrianに相当する(c)においては、Proterozoic(原生累代)末期を除くと大型化石そのものが存在しない。そのため地質年代表が作成され始めた頃には、化石の代わりに類似した岩相の比較によって対比などがされてきたが、異なった大陸間などでそれらを同定することは容易でなく、また同じ岩相をもった岩体が存在する必然性もない。そのため現在の地質年代表におけるPrecambrianの地質年代は、GSSA(Global Standard Stratigraphic Age; 国際標準層序年代)による数値年代で定義されており(Plumb and James, 1986)、年代数値に誤差は生じない。しかし図2にあるHadean(冥王累代)は、現時点では非公式な名称であり、その上限境界の年代値4000 Maも暫定的なものである。

3.異なった基準での年代数値が採用されている理由

地質年代表ICS2009において、なぜ年代区分の違いによってこのような異なった基準に基づいた年代数値が採用されているのだろうか。それにはICSを構成する小委員会の事情が関係している。

ICSには各地質年代ごとに対応する小委員会とそれ以外の小委員会があるので、それらの数はかつて20を超えていた。10年ほど前までは、放射年代を手法として年代数値などを検討するSOG(国際地質年代小委員会)も存在していて、地質年代全体を通して各年代層序の境界の年代数値を検討し、放射年代測定に用いる核種の壊変定数の妥当性などについて検討する役割を担ってきた。しかし、IUGS執行部からICSが小委員会の数が多過ぎるのでその数を減らすことを勧告された際、当時のICS執行部はSOGを廃止することにした。そのためSOGが2002年に廃止されて以降は、年代層序の境界の年代数値を定める役割は、各地質年代に対応するそれぞれの小委員会に任されるようになったのである。

Precambrianに関しては、上記とは異なる経緯がある。もともと各地質年代はその特徴を代表する示準化石などによって区分されているのに対し、Precambrianにおいてはそのような示準化石を手段として用いることができない。そのためICSのSPS(Subcommission on Precambrian Stratigraphy; 先カンブリア時代層序小委員会)では、年代数値によって層序境界を区分することにした。その提案は1989年にSPSおよびICSで承認され、1990年にはIUGSでも批准されていた。

一方、Neogene以後については、1970年代頃から海洋底掘削プロジェクト(DSDP, ODP)によって回収された連続した海洋底掘削コア試料などを分析することにより、地質、微化石、地磁気逆転などに基づいて細分化された層序年代が得られるようになった。そのため、それぞれの層序を区分するために高分解能をもった年代数値が求められるようになり、それに対する試みもされるようになった。例えば地磁気層序に対するCande and Kent(1995)による表(CK)では、その区分を0.001 Ma単位とし、年代区分数値としてJurassicなどでは6桁の年代数値を与えている。この表を作成するためには基準となる9点を選び、それらの年代数値は放射年代および一部天文年代などで調整した値に基づいて推定されている。その際、これらの値には誤差がないものとし、それぞれの間における地磁気逆転の年代を統計的な手法で内挿して数値を与えている。しかし規準として用いられた放射年代は測定値であるので当然測定誤差を含んでおり、しかも3桁の有効数字しか有していない。したがって(CK)での年代数値の有効数値は3桁程度の信頼性しかなく、それ以上に細分化した年代数値は地磁気層序における相対年代を示すことには意味を有しても、他の方法によって得られた年代数値との細かい差異を検討することは不適当である。同様のことは、微化石層序表などにつけられた年代数値でも生じている。そもそもNeogene以後の年代に対しては、放射年代値として0.2〜0.3 %以下の測定確度を得ることは非常に難しい。一方、海洋性堆積物に含まれる底生有孔虫などに対する酸素同位体比の変動から作成されたMarine isotope stageとMilankovitch cycleに基づいて計算された気温変化を結び付けて得られた天文年代は、年代数値としては非常に高い分解能をもつとされた(例、Shackleton et al. 1995)。そのため従来の放射年代測定に代わり、少なくともNeogene以後におけるMarine isotope stageに示される気温変化はMilankovitch cycleに支配されているという前提のもとに、Neogene以後の地質年代に対しては天文年代によって地質年代表への年代数値を与える試みが当時のICS執行部の意向によって提案された(ICS, 2004)。この案は、結局Quaternaryの定義の改訂と共に、2009年の新しい地質年代表ISCとしてIUGSで承認された。

しかし、それ以前の地質年代に対しては、Cretaceous-Paleogene(K-T)境界で隕石衝突によってもたらされた急激な気候変化が示されているように、明らかにMilankovitch cycleとは異なる要因によっても気温変化が生じていることが認められていることもあり、従来通り放射年代のデータに基づいた年代数値が与えられている。このことは、これらの地質年代を扱う各小委員会の年代数値に対する対応が、Neogene以後を対象とする小委員会とは異なっているためと考えられる。

4.地質年代表における年代数値について注意すべきこと

これまで述べてきたように、ICS2009の地質年代表につけられている各境界の年代数値は、Neogene以後とそれ以前、さらにPrecambrianの各地質年代でその意味が異なっている。

図1に見られるように、Neogene以後の地質年代境界に対する年代数値は、1 Maまでの境界は3桁、1 Maより古い年代に対しては4桁ないし5桁の数値で与えられ、±はつけられていない。前述したとおり、これらの年代数値は、Milankovitch cycleに基づいた天文年代に基づいている。天文年代は気候変動の周期性は全てMilankovitch cycleによって支配されていることを前提としており、本来この前提自体については放射年代などとの詳細な比較・検討によってその妥当性が保証される必要がある。気候変動に関する要因としては、これまでも太陽活動やそのほか多くの可能性が挙げられてきており、研究者によってそれぞれに対する見解は分かれている。また、その年代数値を推定する際には、酸素同位体比の周期的変動とMilankovitch cycleなどをうまく対応させるための調整(tuning)が必要であるが、それは一義的に定まるわけでなく、統計的に意味のある不確定さを見積もることも困難である。

Quaternryの境界区分として、GelasianとPiacenzianを区分する年代数値として2.588 Maが与えられているが、放射年代測定値としては、この年代範囲で4桁の有効数値を与える精度は得られない。たとえば、従来Quaternaryの境界とされていたCalabrian とGelasianに対してICS2009では1.806 Maが与えられているが、Odin(1994)では1.75±0.05 Maと表示されている。またGelasian とPiacenzianは、地磁気層序ではMatuyama Reversed Epoch(松山逆磁極期)と Gauss Normal Epoch(ガウス正磁極期)との境界に相当するとされていて、そのことも第四紀の境界を定義するための有力な要因のひとつとなったことが考えられる。しかし、実際は両者が全く同じ地層に対して定義されているわけではなく、地磁気層序ではMatuyama Reversed Epochと Gauss Normal Epochとの境界は天文年代を基にして2.581 Maと推定されている(Ogg and Smith, 2004)。

Milankovitch cycleを前提として求める天文年代にしても、研究者の推定手法によってその数値にも異同が生じる。こうした理由から、Quaternaryに与えられた2.588 Maという年代数値はモデル年代としてそのまま引用するのが最も妥当であるが、丸めた数値を用いる際には他の境界の年代数値と同じ基準に基づいて取り扱うべきであろう。もし概数として取り扱う際には、アメリカ地質学会で採用している2.6 Maの数値(Walker and Geissman, 2009)などを用いた方が、自然現象との対応に関しての年代数値としては問題が少ないと考えられる。

一方、Paleogene以前の地質年代に対して放射年代データを基に与えられている年代数値は、用いられている放射年代値がきちんとそれぞれの年代測定法の前提条件を満足している限り、現在からの年代数値を直接示すはずである。実際には、年代区分の値を得るためには、境界をはさんだ試料の年代測定の数値からの内挿によって求められ、またそれぞれの年代測定値には誤差を伴うので推定された境界の値にも誤差がつく。年代測定に伴う誤差は、方法や試料の種類・年代範囲にもよるが、0.2〜0.3 %以下の分析精度・確度を得ることは容易でない。また各放射壊変定数自体にも不確定さが残っており、各年代測定法における固有の問題と共に、今後さらに検討される必要がある。しかし、同じ対象に対して異なった年代測定法によってクロスチェックすることにより、測定確度としての誤差範囲をある程度まで見積もることができる。そのため、放射年代値を用いて求めた地質年代の境界値の年代数値に誤差を伴うことは避けられないが、特定のモデルとは独立して、年代数値そのものが意味をもつ。このことは、Milankovitch cycleに準拠して与えられているNeogene以後の年代数値とは、原理的に異なる意味を持つ。

Precambrianの年代数値は、数値そのものが地質年代区分に用いられているので数値としての曖昧さはない。

5.最後に

上述したように、ICS2009の地質年代表で与えられている地質年代境界の年代数値は、Neogene以後、PaleogeneからCambrian、Precambrianの各期間では、それぞれ年代数値の推定の仕方が異なっている。そのため、それらの年代数値はそれぞれの意味をきちんと把握した上で用いることが非常に大切である。異なった前提に立った数値を混同すると科学的な議論にまで影響を及ぼす恐れがあるので、十分に注意して欲しい。またこれらの数値年代は、今後も適宜改訂されていく余地があることも念頭においておくことが大切である。

 

【謝辞】

本稿は、天野一男氏、星 博幸氏などとの会話を通じて得た示唆、および斎藤靖二氏からのお勧めもあって執筆することにした。さらに天野氏と斎藤氏には原稿を読んでいただき、その改善のために有益なご指摘をいただいた。これらの方々にお礼の言葉を申し上げます。

【文献】

Gradstein, F.H., Ogg, J.G., Smith, A.G. (ed.) (2004), A Geologic Time Scale 2004. Cambridge University Press.

Harland, W.B., Armstrong, R.L., Cox, A.V. et al. (1990) A Geologic Time Scale 1989. Cambridge University Press.

ICS(International Commission on Stratigraphy) (2009), International Stratigraphic Chart 2009, (http://www.stratigraphy.org/).

Odin, G. S. (1994) Geologic time scale. Comptes rendus de l’Academie des Sciences de Paris, Serie II, 318, 59-71.

奥村晃史、第四紀の新しい定義:人類の未来を拓く鍵として、JGL, 6(2), 1-3.

Plumb, K.A. and James, H.I. (1986) Subdivision of Precambrian time: recommendations and suggestions by the Subcommission on Precambrian Stratigraphy. Precambrian Research, 32(1), 65-92.

Shackleton, N.J., Berger, A. and Peltier, W.A. (1990), An alternative astronomical calibration of the lower Pleistocene time scale based on ODP Site 677. Transaction of the Royal Society of Edinburgh, Earth Sciences, 81, 251-161.

Walker, J.D. and Geissman, J.W. (compilers) (2009), Geologic Time Scale. Geological Society of America, doi: 10.1130/2009.CTS004R2C.

 

(原稿受付 2011年7月6日)

 

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