放射性物質を含んでいる福島県太田川河川敷で発見した黒砂中の磁性細菌


田崎和江(正会員)・横山明彦 (金沢大学理工研究域)・涌島英揮・石原牧子


  2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し,地震と津波による被害が生じた. さらに, 東京電力福島第一原子力発電所のある福島県では,原子炉の損傷により放射性物質が飛散し,広範囲に被害が及んだ.2020年3月11日に福島県南相馬市双葉町の避難困難区域は解除となったが,多くの住民は安心して帰宅することはできず,いまだに不安を抱えている.その理由の1つとして,放射性物質が飛散したことによる残留放射線の影響が挙げられる.居住地域の表面を覆う土壌はすべて表面を削り取り, 新しい土壌に入れ替えたため, 現在汚染されてはいない.しかし,河川・ダム・ため池の除染作業は原則実施しない方針のため,それらの周囲には,汚染物質除去作業を行っていない土壌が存在している.著者らはこの10年間,除染対策を探るために, 特に福島県南相馬市原町区周辺の河川・ダム・流域の土壌,森林の現地調査および実験室における放射能測定・分析電子顕微鏡による微生物や鉱物の観察, さらにクロマツの植生などの研究を行って論文を公表してきた.ここでは,2020年2〜3月に横川ダム周辺や太田川流域の河川敷にて,高放射能を持つ黒砂を発見したので, そのデータを提供する(図1).

図1.横川ダムと太田川上流の各調査地点とGMサーベーメータによる約1m高の放射線計数率
 

2020年2月22日, 横川ダム周辺と太田川流域の上流河川において, 放射能測定と土壌・砂・植物・苔などの採取をした(図1).各調査地点におけるGMサーベーメータによる約1m高の放射線計数率(cpm)は,その地点の空間線量を反映していると思われるが,ダム周辺では山林に囲まれた地点で値が高くなる傾向が見られた.また,コケ植物の表面で放射能の濃縮がみられた.さらに, 太田川流域では, 河川敷表面に堆積していた黒砂の放射能を測定・分析したところ高い放射能値が認められた. 加えて,金沢医科大学に設置された分析電子顕微鏡でこの黒砂を観察した結果, 黒砂中に多量のマグネタイトと磁性細菌が認められた(図2). なお, 堆積物中の鉱物はX線粉末回折分析装置で同定を行った. 磁性細菌の同定は金沢大学理工研究域の田岡東博士に鑑定していただいた. 
 

図2.太田川河川敷表面で採取した黒砂の電子顕微鏡観察画像. 左上の写真の濃い黒い小球状粒子の塊は磁性細菌の塊, 濃い灰色の板状粒子は雲母類鉱物, 右上の写真のサイコロ状の塊は磁鉄鉱. 下段の薄い灰色微粒子は粘土鉱物, 角張った不透明のサイコロ状粒子は磁鉄鉱. 
 

なお, その黒砂に過酸化水素水をかけると, 対照実験としてされた福島県松川浦南海岸の黒砂に比べて, 激しく発砲したことから, 黒砂には多くの有機物が含まれており,おそらくその起源となる微生物が多く生息していたと考えられる.また, GMサーベーメータによる河原の砂の平均的な計数率は200cpm(密着測定)であるのに対し,黒砂の部分は約2倍の400cpmの計数率が測定された. 県道沿いにある公会堂の前には,放射線量モニターが設置されており地上1mの高さの放射線量がモニターに表示されていた.それらの値は, 道路上で直接測定した値に対して低い値を示していた.2020年3月下旬に採取した太田川河川敷の黒砂を金沢大学に依頼分析した結果はこれらの物質の放射性セシウム同位体放射能比が福島第一原子力発電所2, 3号炉の放射能比と一致していることを示しており, これらの測定データは2011年3月11日の福島第一原子力発電所の事故により拡散した高濃度の放射性核種が太田川や周辺土壌に広がっていることを示唆している(※1).
 

以上の結果をもとに, 今後について展望したい. 横川ダム周辺の結果より,ダム周辺の山林の土壌中には原子炉の損傷により飛散した放射性物質が堆積している.特に今回の調査では生活圏でも高い線量が観測できたことから, 活動している地球では, それらの放射性物質はいつまでもそこに留まってくれているわけではなく, 他に移動し, 新たなホットスポットを形成してしまうことが懸念される. さらに, コケ植物などでは生態濃縮が見られたことにより,早急に生活圏を取り巻く周辺地域の汚染物質除去作業を行うことが求められる.また, 採取した磁性細菌では放射能が周囲より高く検出された.磁性細菌が大量に生息しているこの黒砂が放射能汚染水に何らかの形で関与し, 放射性物質を集濃する作用があると推測される.津波中の微生物が水田土壌の環境を変えるとともに,放射能汚染環境が微生物に耐性をもたせ, 進化させるという相互作用が報告されている(田崎ほか, 2011, 2014). これらのことから,元来生息していた磁性細菌が放射能汚染環境に耐性を持ち,それらを体内に取り込んでいる可能性も示唆される.米国を中心とした核開発に力を入れている諸外国では,アクチノイドなど, 取り扱いに制限がある元素を吸着材として用いる研究を行っているが,日本にはそのような研究拠点がない.吸着剤として十分に解明されていない元素を用いるのではなく,身近に存在し,これまでも共生している微生物を放射性物質の吸着剤として用いることができれば,より安全・安心・低コストの吸着材の開発ができるのではないかと考える.
 

また, 今回発見した細菌には磁性があるため,吸収した放射性物質の回収には電磁石を用いることも可能であり,硫酸還元細菌と併用することで,放射性物質を鉱物化して閉じ込めることも可能であると考える.放射性物質の流れ込む河川において,磁性細菌を利用することで,ダム湖周辺の山林に蓄積している放射能汚染物質の生活圏への流入や海への流失を防げるのではないだろうかと考える.本研究を行うに際し, 現地を案内してくださった福島県南相馬市原町区の住民の皆様に感謝申し上げます. 

※1:採取された黒砂は, 別に採取された白砂や海岸で採取された黒砂と同様に, それぞれ円筒形のU8容器に試料の高さが5僂砲覆襪茲Δ膨汗阿掘で蚓未靴. それぞれの試料について金沢大学アイソトープ理工研究施設に設置された高分解ゲルマニウム半導体検出器でγ線スペクトルを取得し, 同じ形状の日本分析化学会提供標準試料の結果と比較して放射能を定量した. 放射能濃度は圧倒的に河川敷で採取した黒砂が大きいが(134Cs: 2.62x102, 1377Cs: 4.13x103 Bq/kg), 白砂(134Cs: 2.67x10, 137Cs: 4.25x102 Bq/kg)を含めてセシウム同位体放射能比は福島第一原子力発電所2, 3号炉から放出されたものに一致し, ともに起源は一致していることを示す. なお, 海岸の黒砂(137Cs: 3.81 Bq/kg)は放射能が小さく134Csが観測されていないので放射能比は与えられず, 起源について特定できない. 
 

参考文献

  • 田崎和江・高橋正則・鈴木祐恵・井本香如,2011,東日本大震災における空間β線測定. 地球科学, 65,175-177.
  • 田崎和江・霜島康浩・根元直樹・鈴木克久・竹原照明・石垣靖人・中川秀昭, 2014, 津波被害を受けた水田に形成したバイオマットの放射能除染能力の可能性(後編);福島での災害の実態と地域に根ざした取り組み. 地学教育と科学運動, 73, 63-69. 
 
(2021.6.15掲載)
※本記事は,日本地質学会News Vol. 24, No. 6(2021年6月号)にも掲載しています.